俺は泣かないぞ

「ふう、さすがにお腹一杯になったな」


「そーだね、もう何にも入んない」


 杏樹の家でごちそうになっての帰り道なんだがお腹が重すぎてヨタヨタになってしまう。


「つっくん変な歩き方だね」


 同じ量食っておいて何で平気そうなんだよ……


「そういえば、もう一週間なんだね」


「確かにな」


 俺からしたらまだ一週間なんだけどな。




 家に着き少しのんびりとしていると


 プルルルルルル


 あれ? 編集さんからだ、なんだろう。


「もしもし、海竜です」


「海竜先生! やりましたよ!」


「へ?」


 間抜けな返事が出てしまった。


「先生の作品が重版になりました! しかも追加八万部ですよ!」


 は、八万だって!? とんでもない数字じゃないか!


「本当ですか!?」


「本当ですとも! おめでとうございます!」


「あ、ありがとうございます!」




「未来、話がある」


「え、なに……? そんな改まって……」


「未来が手伝ってくれたラノベな、重版が決まったって!」


「ほんとなの!?」


 そりゃ、驚くよな。 こんな新人のラノベが八万部の重版なんだからな!


「お、おめでとう!」


「ああ、ありがとな!」



 だめだ、嬉しすぎて眠れそうにないぞ。

 明日も学校あるのに!



 プルルルルルル


 また電話か、編集さんか?

 なんだ母さんかよ。


「もしもしー」


「紗月ー、あのね伝えなきゃいけないことができたの。」


 なんだ? 伝えなくちゃいけないこと?


「母さんと父さんね、あと三年は海外にいなくちゃいけないみたいなのー」


「へえー、三年ねー」


 ん!? 三年!?


「三年ってほんとなのか!?」


「思ったより大きいプロジェクトになっちゃって」


 三年ってマジかよ……


「まあ、そういうことだからよろしくねー」


「ちょ、まって!」


 ブツッ


 また、途中で切りやがった…… 国際電話は高いからなのか……

 さてどうしたものか……

 未来にはどう伝えようか、と考えていたら


 ガチャ


「今の話本当?」


 聞かれてたのかよ。


「ああ、本当みたいなんだが未来はそれでいいか? その…… 俺とあと三年一緒で……」


「私は大丈夫だよ? むしろ嬉しいくらい」


 嬉しいとかのんきだな…… こっちは色々心配してんのに……


「ちょっとは驚いたりしないのか!?」


「ちょっと動かないでね」


「えっ?」


 なんだ? と思った瞬間未来が抱きついてきた。

 俺は激しく混乱する。


「落ち着いて聞いてね、まずは小説の重版おめでとう」


 すっかり忘れていた、でもしょうがないだろうこんなことを聞かされたんだから。


「それでね、つっくんは心配しすぎなんだよ?」


 ッ!


「そんなこと言ったって!」


「紗月! 一回落ち着いて、ね?」


 うっ…… 優しい声でそんなこと言うなよ……


「つっくんはなんのために私がいると思ってるの? もしかしたらただの居候かもしれないけど少なくとも私は恋人で家族だと思ってるよ? つっくんはどうなの?」


 確かにそうだな、未来は家事も何でもできるし自分で恋人と言っておきながら一線は引いてるみたいだし……


「未来は家族だよ…… おせっかいで自分勝手なお姉ちゃんみたいなやつだよ……」


 やっと本当の気持ちが言えた気がする…… ちゃんとした家族だと……


「もうちょっとこうしてていいか……?」


「気が済むまでいいよ」


 こんなときに優しすぎるのもどうかと思うぞ。

 泣きたくなってくるじゃねえか、泣かないけどさ……

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