デートじゃないからな

 「ふう…… なんとか終わったか」

 

 俺は土曜日一日を使って締め切り直前の原稿を書き上げ、編集さんに送った。

 本当は未来と家事などをするつもりだったのだが。


「このくらい任せて!」


 と語尾にキラキラマークが付きそうなほど元気に言われたので折れてやった。

 おかげで二日かけて書くつもりだった原稿が一日で終わった。 お詫びに明日は未来用の生活必需の買い物でも行こうかな、とか思っていると台所のほうからいい匂いが漂ってきた。

 匂いにつられて行ってみると。


「あ!つっくん!やること終わったの?」


「おかげで思ったより早く終わったよ、ありがとな。」


 あれ? なんかリビングがピカピカになっているような…


「なあ未来」


「なあーに?」


「もしかしてリビング掃除してくれた?」


「軽くはやったけどどう?」


 彼女はとんでもない家事スキルを持っているようだ。


「いいお嫁さんになれるな」


「え、もしかしてプロポ」


「違うぞ、社交辞令だ」


 とは言いつつも未来は本当にいい嫁さんになりそうだ、掃除はもちろんのこと料理もできて洗濯機などの機械にも強い。

 あれ?ハイスペック過ぎない? なんか俺ヒモみたいじゃん。


「明日からは俺も家事手伝うからな」


「えー、別にいいのにー」


「なんか申し訳ないだろ、あと俺が無能に思えてくるから……」


「一生面倒見てあげようか?」


 やったあ、逆プロポーズだあ。 速攻断るけどな。

 あ、そだ。


「明日未来の生活必需品とかの買い物行くけど来るか?」


「え? デート? 行くいく!」


 即答かい。


「じゃあおやすみー」


「うんっ! おやすみ」


 ご機嫌そうでなによりだ、それに今日は未来もベッドに来ないだろう。

 何気に徹夜だから凄い睡魔なんだよな。




 ん? なんか耳元で寝息がするぞ… もしかしてまたか?


 まただった……

 熟睡しちゃってるし起こすのも悪いな……

 しょうがないからリビングのソファで寝るか。



「おはよう」


「おはー、ってなんか凄い眠そうだよ? 大丈夫?」


 俺の安眠を妨げたのは誰だと思っていやがる。


「また俺のベッドに来ただろ」


「ごめんなさーい」


 こいつ謝る気ないな。



「今日はどこ行くの?」


「近くのショッピングモールだ」


「やっぱりデートじゃん」


「買い物って言っただろー、ずっと服が俺のシャツでいいのかよ」


「うーん、正直ちょっといや」


 おいおい紗月くん傷ついちゃったぞ、どうしてくれんだ。

 まあ、しょうがないか。 もともと親戚の人のおかげで一人暮らしもできてたんだもんな、だから通帳や制服くらいの物しか持ってないのも頷ける。




「うわー、すっごい広いね!」


 モールに来てからずっと未来は初めて体育館を見た子供のようにはしゃいでいる。


「確かにここはでかいよな」


 全国有数の大型ショッピングモールとはいえここは基本なんでもあるからな。

 来たついでだし少しくらい遊んでいくか。




「一通り買い揃えたしそろそろ出口方面の向かうか」


「えー、もうデート終わりなのー?」


「しょうがないなあ、あと三十分だけな」


「やったー! じゃあ思いっきり遊ぼー!」


 こいつの体力はどうなってやがる、無限なのか?



 一通り遊んで出口方面の向かって歩いているんだが。


「なかなか重いな…」


 生活必需品だけとはいえ結構重いぞこれ。


「ほら男でしょー、頑張って!」


 個人的には未来のほうが力持ちな気がするが…


「ちょっと休憩するか」


「ちょっとだけだよー」


 と近くの休憩スペースに行きベンチに腰掛けた。

 すると


「あれ?りゅーくんとみーちゃん…… どゆこと?」


 そこにはクラスメイトで元幼馴染の杏樹あんじゅが立っていた。

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