テケってねぇテケテケさんってアリなん……

 今日は市田イチタ レイと大学の後輩で家柄がそれなりなところ出身の三ッ瀬 莉衣菜ミツセ リイナと自宅近くの公園に来ていた。と言っても、呑気にピクニックと言う訳では無いが、説明が少々ややこしいので順を追って説明する。市田 黎。元『口裂け女』である彼女の本名。と、言っても現在の戸籍登記上は……の話だが。


 どうやら彼女は怪異化した事で記憶の一部が欠損しているらしい。だから本当の本名もわからず、産まれ育った場所もわからない。それが故か『口裂け女』の頃の様々な特性が、特に異常なほど高い身体能力が〈治せない後遺症〉として、未だに残ってしまっているらしい。その制御のトレーニングために公園に来ていた。後輩の三ッ瀬を呼んだのは、記憶にある仲間の中だと身長体重体格が最も近かったからだ。


 そんな感じでトレーニングすること5日目。今日も今日とて、夜の10時から朝の4時まで色々やって記録を取っていた。花子さんには人払いと、どこで覚えたのか聞きたくなるがいつの間にやら身に付けていた、消音結界を張ってもらったからある程度でかい音が鳴っても気にする必要は無い。ありがたいな。


 有り余る対怪異性BB弾秒間25射を無意識に完全回避するし、意識的に当たれと言えばいくらバラけさせても全弾当たりに行く様な事が出来ちゃってるしなぁ。うーむ。この感じだと……社会に溶け込めるようになるまでに1ヶ月はかかりそうだ……。どうしたもんかね……。なんて思いつつ、2人に手伝ってもらって使った物を片付けていたら、あとは彼女達には触らせられないやや扱いが難しい物だけになっていた。

「市田。三ッ瀬。手伝いありがとな。2人はなんか自販で買って休んでてくれ」

そう言って500円玉を投げる。


 流石の動体視力と瞬発力で市田がキャッチしポケットに入れる。

「怪我しないように気を付けて」

「センパーイ!! 何買っておけば良いですかー?」

と、立て続けに市田と三ッ瀬から返事が来る。

「あ〜じゃあ、160円のエナドリ頼む!!」

「分かりましたー!! 体に悪いんであんまり飲み過ぎない様にして下さいねー!! センパーイ」

「おー!!」

と、軽い会話をして残った扱いが難しい奴の撤去にかかる。


 それもテキパキと片付け、ラストの『BB弾ばら撒きトラップ』こと『設置式BB弾面状投射装置』を回収しようとした瞬間、嫌な気配を感じた。直後、頭をピリッと電気が通る様な感覚。何となく気配を感じた左を見る。そこには下半身が無い腕だけで立った女が居た。『テケテケさん』だ。時速150km出されたら俺の脚じゃ逃げられない。マズイ。


 と、思った瞬間には太めの木の枝の上に居た。驚きの余り木から落ちそうだったが、手を掴む確かな温もりで全てを察した。

「悪いな。市田」

「良いよ。これくらい。で、どうするの? 『テケテケさん』は」

「トラップのアレで何とか出来ると良いけど、ダメだったらどうしようかなぁ……」

「とりあえず私が囮になってしばらくテケテケさんを引き摺り回しておけばいいかしら?」

「頼む」


 あ。待って。ヤバイ。トラップの中のBB弾、最近先輩から送り付けられた『怪異干渉弾』の干渉力が弱い方だった。怪異に触れることは出来ても、攻撃する事が出来ないタイプの弾で、弱い方になると姿が見えない怪異の中に入った時だけスピードが落ちると言った特性がある。あー。でも、俺と関わった怪異は悉くことごとくヤバイ方向に行ってるし、なんかヒントが得られるかもしれん。


 とりあえずやってみよう。

「例の奴の所まで誘導頼んだ」

「了解」

「カウントダウン」

「3・2・1・0」

彼女のカウントダウンに合わせて、手元のスマホの画面をタップする。直後トラップが作動する音が聴こえる。数秒のタイムラグの後、側に設置していたスローモーションカメラからの映像が届く。


 見てみよう。弾が撒き散らかされ、テケテケさんの体に当たり落ち……ん? まさかこれって。

「もう一周頼む」

「わかった」

ここで電話にコールが入る。即座に出ると

「もしもし。私メリー。持って行った方が良い?」

と聞こえて来る。

「頼む」

「了解」

短い会話の後、もう一度来る方を見つめる。


 今は、もう一度コールがかかる事を切に願うのみ。来た!!

「もしもし。私メリー。今テケテケさんの後ろに居るの」

が聞こえた瞬間

「左上腕浅め!!」

と指示を出す。見えない事の方が多いメリーさんが、刃まで黒いコンバットナイフを右手で逆手に握り、振る姿を見た気がした。長いシルバーの髪が大きく振られ、そしてふわりと浮き上がる。メリーさんが着地すると同時に、テケテケさんが惰性で前にすっ飛ぶ。


 で。干渉能力の高い方の弾をテケテケさんの上半身より下にあたる所とその背後すこし上くらいのところに撃ち込む。干渉能力が高い方の弾は霊・怪異的存在に接するとそこに静止する特性がある。やっぱり。撃った弾はどちらも、あるところで静止した。その事が示すのは1つ。。そして、と言う事だ。すぐさま名刺入れに入れていた種類の違うお札3枚を取り出すと、1枚をテケテケさんの首の付け根に、残り2枚をそれぞれ下半身がありそうな位置と背後のナゾの存在に貼り付ける。下半身とナゾの存在が姿を現す。


 ほとぼりが冷めた頃に来た三ッ瀬がそれを見て何とも言えない顔をする。

「えっと……」

「まあ、そう言う事さ」

「テケって無いテケテケさんってアリ!?」

「ちょっと待て? 『テケる』ってなんだ!!」

「テケテケさんしてるテケテケさんを表す言葉だよ」

「勝手に単語化すんな!!

「ところで、テケテケさん」

「なんですか?」

『!?』

「ごめん。ちょっとスカートの下確認させてもらっていい? と、言うかまぁ首のお札で抵抗できない状態にしちゃってある訳だけども」

「まぁ」

「うん。確かに。いや。まさかそう言う事だったとは」

テケテケさんの概要を示さないと説明がややこしくなりそうだな……。


テケテケさん概要 (ウィキペディアより一部抜粋)

 冬の北海道室蘭の踏み切りで女子高生が列車に撥ねられ、上半身と下半身とに切断されたが、あまりの寒さに切断部分が凍結し、しばらくの間、生きていたという。この話を聞いた人の所には3日以内に下半身の無い女性の霊が現れる。逃げても、時速100-150キロの高速で追いかけてくるので、追い払う呪文を言えないと恐ろしい目にあうという。多くの場合「女性」とされるが、稀に男性で描写されることもある。


 一部では『男性』ではないかと言われていると言う噂話を小耳に挟んだ事があったが、まさか事実だったとは。と、言っても話はもっとややこしそうだか……。

「率直に聞きます。あなたは、『女装男子』ですね?」

「そうですけど」

「恥ずかしがる必要はありませんよ。今の時代、そんな人はたくさんいます。で、あともう1つさっきは驚きの余り聞きそびれた事ですけど、事故にあって死んだ直後は動き辛くありませんでしたか?」

「そうですね」

「その後、ある時から動きやすくなった」

「えぇ」


 これであとは後ろの謎の存在との関わりがわかれば。

「ねぇテケテケさん。いや、テケテケくんかな?この場合は。首ならギリギリ動くと思うけれど。どう?」

「あぁ。動かせるがなん……!?」

「やっと気付いたか」

「なぁ!! このオッサンマジで誰だよ!!」

「お前の追っかけしてたオッサンだろうな」


 書いたところでどうしょうもないので、後ろの存在との会話は割愛させてもらう。あらかた、今回のテケテケさんの発生理由は人々の認識に問題があった。と言った感じだろうな。彼が死んでいることには変わりはないが、警察が流したカバーストーリーに尾ひれが付きまくった結果という事だ。


 オッサンは強制除霊、テケテケさんは『噂』と言う呪縛から逃れる事が出来て無事に昇天したそうだ。

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