第13話

 ゆらゆらと揺れる松明の灯りが地下牢を照らしている。



「勇者よ。気分はどうだ?」



 俺は鉄格子越しに声を掛けるが返事はない。こちらに背を向けて膝を抱え座る勇者は微動だにしない。



「おい!陛下にお声を掛けて頂いているのだ!お答えしろ!」


「いい、レーナ。大丈夫だ」



 レーナを手で制し、それでも何の動きもない勇者のだらしなく太ってまんまるとした背中をじっと眺めた。



「いくつか聞きたいことがある。お前が持つ祝福についてだ。召還した日に俺は祝福の有無についてお前に尋ねたがお前は祝福はないといった。間違いないな?」


「・・・・・」


「ではどうやってステータスの隠ぺいを行ったのだ?祝福を使ったのではないのか?お前の持つ祝福は何ができる?...もしお前が持つ祝福が此方にとって有益なものであると判断できるのであればいままでの行いについては多少は目をつむろう」



 勇者はピクリと肩を震わせゆっくりとこちらに顔を向けた。牢は薄暗くその表情ははっきりと見えなかったがこちらを睨み付ける眼光は鈍く光り、強い憎しみがこもっていることははっきりと見て取れた。



「な、何も話すことは、ない」


「そうか。それがお前の答えか」


「あ、あぁ!そうだよ!ぼ、僕は被害者なんだ!突然異世界なんかに召還されて、ら、拉致だ!誘拐だ!お前たちは犯罪者なんだ!ぼ、僕は悪くない。ちょっとぐらいわがままが通ってもいいじゃないか!それなのにこんな...り、理不尽だ!訴えてやる!」



 こいつの言う通り確かに召還したのはこちらの方だ。

 どうやら勇者召還は勇者の意思に関係なく強制的に異世界からこちらに送還されるようだった。そのことは心苦しく感じているし申し訳ないとも感じている。



「貴様!ふざけるな!陛下の前に姿を現した時、至極喜んでいたではないか!満面の笑みで『召還していただいたことに最大の感謝を。あなた様に命をとして忠誠を誓います』などと抜かしておったではないか!」


「う、うるさい!お、お前らが悪いんだろ!ま、毎日毎日苦しい訓練ばかりさせて!異世界って言ったらチートとかハーレムがテンプレなのになんでないんだよ!」


「チート?なにをわけのわからんこといっている!だいたい貴様はっ---」


「もうよい!!!」



 言い合いを続けるレーネと勇者を黙らせた。



「レーネ、勇者の罪状を」


「はっ!失礼いたしました。勇者召還から本日までの3か月間の勇者の罪について、王国宝物庫への無断侵入及び国宝の窃盗未遂、城内施設の器物破損、王都住民宅での不法侵入及び住民女性の下着窃盗、娼館での無銭利用及び従業員への傷害罪、女性兵士入浴時の窃視罪、メイドへの性的発言による侮辱罪及び強姦未遂、貴族及び国王陛下に対する度重なる不敬罪。以上、勇者の罪状となります」


「.....わかった。勇者マサハル・タナカ。度重なる罪と王国への貢献の拒否により、与えた爵位のはく奪及び犯罪奴隷として流刑の罰則を科す、以上だ」



そう言い放った後、踵を返し喚き散らす勇者の叫びを背中に受けながら地下牢を後にした。

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