第6話
朝の定例会議を終え宰相のマークスと共に執務室へ向かった。
財務に関して国王の決済が必用な書類を確認するためなのだが正直気が進まない。
執務室に入ると机の上には山盛りになった書類が積んでありその量にげんなりした。そろっと部屋から出ようとした。
「クロノス様、逃げられませんよ」
肩を掴まれた。
マークスの細い腕からは信じられない程の力で締め付けられた。
痛い痛い痛い。
巷ではその端正な顔立ちからの笑顔は魔性の微笑みと呼ばれ多くの女性を虜にすると噂される笑顔でこちらを見てきたが、目が笑ってない。
何が魔性だよ!
ただ単に若作りのおっさんじゃねーか。
「若、今何か失礼な事思いませんでしたか?」
いつものように穏やかな口調なのだがその言葉の裏にある怒りが隠せていない。
俺を若と呼ぶときはかなり頭にきている時だ。
俺は素直に机の前に座った。
嫌々ながらも書類に目を通していき時々世間話や書類の内容について質問なんかをマークスとしながら処理していった。
「ふぅ、これで全部か」
「お疲れ様です。陛下」
「うん。マークスもお疲れ様。にしてもブラスの輸出はいまだに順調みたいだな」
一枚の書類に目をやると鉱石売買に関する売り上げとその詳細が書かれていた。
ブラス石は貧者の金とも呼ばれる鉱石で精製すれば鈍く光るくすんだ金の様な金属が出来上がる。
他の金属と比べ加工が容易にもかかわらず丈夫でさらに軽い為、武具から食器までさまざまな用途で使われている。
勇者召還のため魔石を取りにこそこそ森や山を出入りしていた時にたまたま鉱脈を見つけた。
掘ってみるとかなりの量があるようだったので本格的に採掘計画を立て他国へと輸出するまでの道筋を立て、それが成功し今では我が国の大きな財源となっている。
俺が戴冠してすぐに臣下のほとんどから前国王が勇者召還の為に集めた魔石を全て売却すべきだとの意見があがった。
国家予算の半分ほどの金が浪費され、前国王なき今、魔石を売り少しでも補填するべきだと。
そもそも勇者召還などおとぎ話であり成功するかどうかも定かではなかったためそういった意見があがることは当然だった。
俺ももちろん経済的に小規模なこの国であるからこそ有事に備え国庫を常に蓄えておくことの重要性はしっかりと理解していた。
だが親父の遺言を叶えてあげたい気持ちもあった。
俺も母の死に憤る気持ち、親父をあんな姿にした見えない敵に対して激しく憎む気持ちはある。
もし、勇者召還が成功し母の死にかかわる人間を見つけ討つことができるのであればどれ程のものか。
俺は葛藤し続けた。
しかし俺はその後、勇者召還の召還自体に成功した。
ブラス石の鉱脈を見つけそれを財源の柱にすることに成功し、財源に余裕を持つことができ反対意見を黙らせることができたためだ。
それにしてもまさかあんな奴が勇者として召喚されるとは思いもよらなかったが。
「そうだマークス。勇者の様子について何か聞いているか?」
「ええ、4日前に地下牢に入れた時は牢の中で暴れまわっていたようですがいまではおとなしいようです」
「よく牢が壊れなかったな。魔法なんかも使っていたのだろ?」
「実をいうと勇者は召還されてからおそらく神の祝福を使って気づかれないように訓練をさぼっていたようです。どんな内容の祝福なのかはわかりませんがそのためレベルがあまり上がっていなかったようで牢を壊せるほどの力はつけていないようです。ステータスも祝福で隠ぺいしていたようでして本日の朝、オグエノ様に登城いただき鑑定していただきましたところ判明したようです」
「オグエノ爺さんまだ生きてたのか」
「ちょっと、陛下。失礼ですよ。それに賢者であるオグエノ様が亡くなったとあれば陛下の耳に届いていないわけがないではありませんか」
「冗談だよ。しかし、やっぱり祝福をもっていやがったか。爺さんはなんて?」
「祝福があるのは確認できるようなのですがオグエノ様の力を持っても勇者の祝福の内容は確認できないとのことです」
「そうか...」
祝福の内容が分かればそれを利用し母の殺しに関わった人間を特定ができるかもしれない。
勇者に尋ねたことがあるが、どういう意図があってか、祝福は持っていないの一点張りだった。
「クロノス様、どうするおつもりですか?」
「.....一度、勇者と話をしてみる。直接、祝福の件を確認したい。国益に繋がらないようであればこれまで犯してきた罪に応じ厳罰に処そうと思う」
出来ることならそうはしたくないのだがな。
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