第5話

 前国王、つまり俺の父親アルブレクトは決して賢王などではなく良くも悪くも平凡な王だった。


 決断力が乏く争いを好まない人で王としては力不足であり初代国王の血脈の力は現れず本人自身の武力も並みだった。


 しかしアルブレクトは多くの臣下や国民に愛される王であった。

身分差にこだわらず人々を平等に想い、分け隔てなく接した。


 王は臣下を強く信頼し臣下も王に尽くすべく邁進し平凡である親父が支障なく国を運営できていたのはひとえに臣下の頑張りがあったからだろう。



 奢らず優しく温厚で何より母をだれよりも愛し大切にするそんな親父が俺は大好きだった。




 そんな親父が変わってしまう出来事が起こった。

 今から5年前、王妃である母が毒殺されたのだった。


 小国アルバーティはその豊かさで常に国を狙われていた。

 表立っての戦争を行う国はなかったが水面下での謀略は渦巻きその結果が母の毒殺に至ったのではないかと皆思っている。



 毒を盛ったであろうメイドは死体として発見されたがそのメイドは平民から起用した見習いであったが素性を調べても出生すらわからなかった。


 他国が送り込んだ間者であったと思われるが本人も死に他国とのつながりも辿ることができず未だになぜ母が殺されたの かどういった意図があり誰が関わっていたのか今もなお、謎のままだ。



 そんな母の死を深く悲しみ、苦しむ親父の姿があった。

 親父の苦悩する姿は誰もが心を痛めた。


 何より親父を苦しめたのは平民のメイドを起用するよう指示した自分自身の判断への後悔だろう。自責の念にとらわれた父の姿は日に日に生気を失い遂には政務を臣下にまかせ自室にこもるようになった。その間、親父の代わりとして俺は政務に携わることになった。


 それが二年程続いたある日めったに部屋からでず誰にも顔を見せようとしていなかった親父が姿を現した。


 頬は痩け、顔色は青白く髪の毛はまだらに禿げ上がり目は血走り以前の面影はなく多くの臣下がその変わりように驚いた。


 更に臣下を驚かせたのは父が発した一言だった。



 勇者召還を行う、と。

 召還された勇者の力を使い王妃エルナを殺した国を探し出し討つ、と。



 親父はこの二年余りをほとんど寝ずに城に保管されている大量の古文書や勇者に関する伝記を読み漁り王家に伝わる口伝などから推測し独自に召還術を研究し遂に勇者召還の召還魔導陣を完成させたとのことだった。


 皆、狂っていると思った。


 しかし正当な国王であるアルブレクトの勅命であれば従わざるを得ない。


 臣下からの求心力を次第に失っていき陰ではおとぎ話に魅せられた愚王と揶揄された。


 しかしアルブレクトは勇者召還を進めるため臣下に大量の魔石を集めさせた。

 召還には膨大の魔力が必要でその供給源としての魔石だった。

 魔石は魔物の核であり魔物の体内に存在する。

 魔物と動物の違いはこれがあるかないかで区別される。


 魔石にもピンからキリまであるが強く強大な魔物であればあるほどその大きさも純度も段違いだが非常に高価だ。


 アルブレクトは純度の高い魔石をいくつも求めた。


 俺をはじめ臣下は反対するがもう誰かの意見を聞いてもらえる状態でないのは明らかだった。


 王は強引に臣下に命じ国家予算の半分を費やす。


 そうして魔石は集まり召還の儀式を行う寸前、アルブレクトは突然苦しみだした。

胸を強く抑え苦しみながら俺にすがり付き、涙を流し言った。



「勇者召還を頼む エルナ愛している」と。



 そのまま倒れこみ息をひきとった。



 その後急遽俺は王位を継ぐことになった。

 勇者召還は前国王の遺言とし行うことにした。

 親父があまりにも不憫に思えたからだ。


 しかし召還は実行できなかった。


 調べてすぐに分かったのだが親父が見積もっていた魔力量、つまり魔石の量が足りなかったのだ。


 すぐに集めようと思ったのだがこれ以上国家の予算を割くことはできない。だから俺は自分自身で集めることに決めた。


 つまり魔物を狩りそこから魔石を取り出そうと考えたのだ。

 幸いアルバーティを囲む山々は強力な魔物に事欠かない。

 政務の合間に変装して城を抜け出し魔物を狩り少しづつ集めていった。



 そして今からちょうど3か月前、魔石は集まり、召還は見事成功した。


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