第4話
朝の訓練を終え自室に戻りメイドに水の入った桶とタオルを準備させた。
「クロノス様、国王になられたのですから身嗜みにはお気を付けくださいませ。おっしゃっていただきましたら湯あみの準備をいたしますと何度も言ってるじゃありませんか」
汗の付いた体を拭いていると壮年のメイド長エマが部屋に入ってきた。
「おはようエマ。いつも言ってるけどいちいちお湯を沸かすのも手間でしょ?それに毎日の事なら燃料も馬鹿にならないじゃないか」
「そういって湯あみするのがめんどくさいだけでしょ全く!それならせめてお身体はメイドに拭かせてください」
「いや自分でできることは自分でするよ」
といったのだが手に持つタオルをエマに取り上げられ新しいタオルでエマは俺の体を拭き始めた。
「ここも、ここも、ここも。拭き残してますよ」
エマは先代の王、つまり俺の父の乳母でいまや誰よりも長く城で勤めている。
几帳面で厳しくも優しい女性だ。
父や母を子のように思い、俺を孫の様に思ってくれている。
エマには母と同じ年の娘が居たそうだが魔物に遭遇し亡くなったそうで遠方の他国より嫁いできて王妃としての立場に慣れない母に親身に仕えた。
母が亡くなった日、いつも凛としていたエマが城の庭隅で声を殺し涙を流す姿は心が張り裂けそうになった。
体を拭き終え服を着替えた俺はそのままダイニングルームへ向かい給仕をそばにすでに準備されていた朝食を一人でとった。
朝食が終わり一息ついて城内の会議室へ向かう。
扉を開けるとすでにいつものメンバーがそろっていてこちらに向かい一斉に一礼した。
軍最高顧問のルドビィをはじめ軍総指揮官テオ、近衛騎士団団長レーネ、文官トップの宰相マークスとその秘書バロネットの五人だ。
俺は円卓の一番奥に座りそのあとに続き五人も着席する。
朝の定例会議を行うのだが進行は宰相が勤め、マークスからの開口で始まる。
「陛下、並びに皆さまおはようございます。それでは早速会議を始めたいと思います」
会議はまず各部署の報告から始まる。軍事に関してはテオから、城内の警備やそれに付随する特記事項はレーネが、財務関連は宰相の代わりに秘書のバロネットがそれぞれ報告する。
「それではクロノス陛下よりお言葉を頂戴したいと思います」
「特に俺から言うことはない。この調子で励んで欲しいのだが、それとは別に先日の、いや召還してからの勇者の言動や行動についてだ。すべてはこの俺に責任がある。皆には俺のあずかり知らぬところでの苦労もあったと思う。すまなかった」
立ち上がり深く頭を垂れた。
「へ、陛下!お顔をお上げください!陛下に責任などございません!すべてはあのぶ...勇者本人の責任です。あの男、お優しい陛下に頭を下げさせるなどっ!問答無用だ!今からこの剣で叩ききってくれる!」
興奮したレーネがその場で剣を抜こうとするのを横のテオが必死に抑える。周りはあきれた表情を浮かべるも内心はレーネに近い感情だ。
「レーネ本当にすまなかった。お前が一番勇者の近くにいたから嫌な思いもたくさんしただろう。それと、俺の為に怒ってくれてありがとう」
今のレーネの様に俺の為に真剣に怒ってくれるのは嬉しいもんだ。
笑顔を向けるとレーネは顔を真っ赤にして俯きおとなしくなった。
ヤレヤレとでも言いたそうな顔を全員がした。
あれ?どうしたの?
マークスが咳払いし口を開いた。
「えーまぁ、あれですがレーミ近衛隊長がおっしゃる様に陛下に責任があるとはこの場にいる皆が思っておりません。それで勇者についてですが勇者の処遇を陛下はどうするおつもりでしょうか?慣例通りなら犯罪奴隷に落とすか極刑に処すかですが」
極刑、つまりは処刑もしくは強制労働を課す犯罪奴隷か。
「すまない。勇者の処遇に関しては少し考えさせてくれないか。悪行は重ねているが確かに戦力としては大きい。それに皆も分かっていると思うが勇者召還は父の、先代国王の遺言でもある。時間が欲しい」
一度勇者と話がしたいと伝え、今日の会議は終了した。
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