第6話 異変
「ドウカ……テシタニシテ……クダサイ…… ! 」
「オ、オネガイ……シマス…… ! 」
体に比べて大きめな頭を懸命に地面にこすりつけて土下座するゴブリン達。
さすがのアルナルドも戸惑っていたが、やがてその顔はほころんでくる。
「……どうしたんですか ? ニヤニヤしだして ? 」
「ククク……。土下座されるって……こんなに気持ちの良いものだったんだな…… ! 俺が帰国したらシリ達にも絶対に土下座させてやる…… ! 」
「何か変な部分が開花してしまったのはお見舞い申し上げますが、どうするんです ? 」
ベルはいまだに頭を上げないゴブリン達を見やる。
「……まあ物は試しだ。お前ら、俺の子分にしてやる ! 」
「オオ ! アリガトウゴザイマス…… ! 」
「オヤブン ! 」
「オヤブン ! 」
頭を上げて醜悪な顔で笑う小さな緑の魔物達。
「……新たに『魔王』が誕生したと判断されて討伐隊が派遣されても文句の言えない光景ですね」
「誰が魔王だ…… ! こいつらは光の勇者の威光に屈したのだ ! 」
そう力強く言い張って、アルナルドは改めて三体のゴブリン達に向き直る。
「お前ら ! 手始めに何か食べ物を探してこい ! 」
「ハ、ハイ ! 」
ゴブリンどもは弾かれたように茂みに飛び込んで行く。
「……いいんですか ? 魔物なんかを手下にして ? 」
「かまわん。それに考え様によっては給金を払わずとも餌さえ与えておけば良い労働力を得たとも言える。もしもっと手下の数を増やせれば軍隊を編成して国を相手にすることも……」
「発想が完全に魔王のそれなんですが……」
「違うと言ってるだろうが ! それに一つわかったことがある」
「なんですか ? 」
「『ライトフィスト』の効果だ。恐らくこいつは『テイマー』系のスキルだな」
この世界における職業「テイマー」は獣の神から「操獣」の恩寵を賜り、それによって動物、極めれば魔獣をもテイムすることが可能であった。
よってアルナルドが「ライトフィスト」で殴ったゴブリンが自分に従ったことからそう類推するのは無理もないことだ。
「……そうですかね ? そもそも『テイマー』のスキルを得る人達って動物とかにも度を超えるほど優しい人達じゃないですか。それこそペットのために殺人を犯しかねないほどの。それに……言葉を喋るはずのない下級モンスターが喋ったのも……「テイム」だけでは説明がつきません」
「うーむ……そう言われれば……まあ細かいことはこれから検証していくか……」
腕組みをするアルナルドの耳に再び茂みを掻き分ける音が聞こえてきた。
「オヤブン ! 」
「ミツケテキマシタ ! 」
3 匹のゴブリンが力を合わせて懸命に茂みから引っ張り出したのは、大きな鹿の死骸だった。
「オオ ! でかした ! 」
「……よくこんな大物を仕留められたね。どうやったの ? 」
「オチテマシタ ! 」
胸を張る 3 匹。
「落ちてた ? そんなわけあるか ! 」
鹿の死体をよく観察すると首があらぬ方向に曲がっていた。
何か大きな力で無理やりにやられたことが容易に想像できた。
ごああああぁぁぁぁぁあああああ !!!!!!!!
咆哮が深緑の樹々を揺らす。
アルナルドが周囲を見渡すと、低木の茂みの緑の海に黒い島が見えた。
それは真っすぐにこちらに向かってくる。
「バカヤロオオォォォォォォオオオオ !! キラーベアの獲物を横取りして来やがったな !! 逃げるぞ !! 」
「ヒィ !! 」
「スミマセン !! 」
勇者とその従者の魔人と手下の 3 匹の魔物は逃げ出した。
────
「……今、悲鳴が聞こえたよな ? 」
ニールは今までとは違った意味で扉を睨む。
「そう ? 」
待ちくたびれたジュリエッタはどうでも良さそうに言う。
「……ニールの言う通り。西の方から聞こえた」
イヤンは武道の修行で鍛えた聴覚でしっかりとその微かな空気の震えを捉えていた。
そして、どうする ? とシリに目で問う。
「……王城の警備はあくまで警備兵の職分だが……国王様にまで被害が及んでから悔やんでも遅い。行くぞ」
その勇者の言葉に皆が立ち上がる。
重厚な木製の扉を開いた先の廊下は暗かった。
いつのまにか立ち込めた暗雲のせいだ。
「……まだ昼過ぎだってのに」
ニールのボヤキは暗く冷たい石造りの壁に吸い込まれて消えていく。
「シリ、私が前衛で良い ? 」
「……そうだな。本来ならニールの役だが、この暗がりだ。夜目のきくイヤンの方が適している。頼むぞ」
その言葉を受けてイヤンが音も無く先頭に立つ。
(……シリも変わったものね。出会ったばかりの頃なら教科書どおりに「戦士」を前衛にすることにこだわったはずだし……そもそも悲鳴の元を確かめようとはしなかっただろう……)
イヤンは恐らくはシリが影響を受けたであろう男の顔を思い浮かべて、少しだけ苦笑いをして進む。
「……ねえ、この先って……」
ジュリエッタが何かに気づいて言う。
「ああ、ベネディクタが軟禁されている貴賓室だ」
暗がりの先に現れた廊下の角を曲がれば、その先に貴賓室の扉がある。
イヤンはペタリと壁に張り付き、その先を窺う。
どうしてか一層暗くなった彼女の視線の先に見つけた扉は、開いていた。
その前に配備されていたはずの警備兵の姿も消えている。
イヤンが険しい目つきで振り向くと、彼女の後ろに待機していたメンバーはそれぞれ剣を鞘から抜き、杖をしっかりと構え直した。
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