管狐

管狐1 夢ー紫苑

 ずいぶんと昔の夢を見た。


 東雲しののめの空をぼんやりと眺めながら、紫苑しおんはまどろみの中で見たたまゆらの夢を思い返していた。

 紫苑が六つの頃、しばらく預けられていた本家の夢だ。年の近い本家の子どもたちと拾った、仔犬の夢。

 紫苑の頬がふと緩む。懐かしい記憶だ。

「ふふっ……」

 思わず声が漏れる。


 ずいぶんと昔の夢を見た。

 目の前に落ちた、文字どおりの青天の霹靂へきれきとともに現れた小さな仔犬。ポチと名付けられたその仔犬が実は犬ではなかったことに気が付いたのは、ポチとの別れの日、霹靂とともにやってきたポチの母親と一緒に、ポチが稲妻を駆け上がっていった後だった。どうりで最初にポチを拾ってきた時の華多菜かたなの反応が、どことなく違和感をおぼえるものだったはずだと紫苑は思い返す。

 拾ってきたのは犬の子でなければ狸の子でもなく、雷獣らいじゅうの子だったのだ。雷とともに現れたのだから、そう考えるのが自然なのだが、紫苑はもとより誘鬼ゆうき鶴戯つるぎもまだまだ小さくて、とてもそこまで物事を知る年ではなかった。それと知らずに犬の子だと思い込んで雷獣を飼っていたのだ。帰ってしまった時は寂しかったが、なんとも愉快な思い出だった。


 ポチの思い出に目を細めた時、紫苑の中の狐がぴくりと震えた。

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