古椿11子守唄
子守唄が聞こえる。
若い、少年の声だ。
今度こそ夢も見ないくらいに、深く深く、夜の闇よりもずっと深い、右も左も、上も下もない深いところで永遠の眠りにつくように、そんな祈りのこもった静かで優しい声だ。
森は、誘鬼の鎮魂の祭文を聞きながら、眠りに就いた。
頭上にある木々の枝の間から見える空の色が薄くなりはじめ、麓で一番鶏の声が聞こえる頃、誘鬼は合掌を解いた。
目の前の古い椿の木は花をすべて落とし、残っていた少ない葉は大気の流れに弱々しく揺れていた。裏へ回ってみると、幹には大きな洞が空いていて、本当に樹皮一枚で生きていたという感じだった。籾殻を剥いた米粒と酒を根元に供え、残った稲穂を髪に挿すとゆるりと立ち上がった。
「人間の血なんか吸わなくったって、十分きれいだよ」
枯死した椿の根元にたたずみ、誘鬼は語りかけるように呟く。
その言葉に抗議するように、火狩が、小さな炎をふるふると震わせながら誘鬼の目の前を飛び回った。
誘鬼の足元には、瑞々しい葉のついた、真新しい椿の小さな枝が生えていた。
夜が明け始め、辺りを見渡すとうっすらと白い靄がかかっていた。真っ暗だった森の中に光が差し込み、一秒ごとに白んでくる。しばらく行った道の先にあった小さな祠で、誘鬼はしばしの休眠をとった。
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