第93話


「詩絵子さん、これプレゼントです」


「わーい、なんだろ」



 豪勢にラッピングされた包みを開ける。



「わあ、セーターだあ……」



 正確には、髪が編み込んであるセーターだった。そういえば主任言ってたなあ……。彼女は髪まで模様として編むって……。心なしか美雪さんの髪、前より少し短くなったような……。


 なんて、怖いこともあったけど……。



「あ、そういえば美雪さん、この家の広さって」


「きゃっ……」



 料理を食べ終え、プレゼントも貰い、クリスマスらしい行事があらかた済んだ頃、私はトイレから戻ってきた美雪さんに言いかけた。


 すると美雪さんは何もないところでつまづいて転び、ソファーに座る私めがけて倒れてきた。もにゅん、と柔らかな感触が顔に押し付けられる。



「す、すみません詩絵子さん!」


「あは、あははは……」


 知らなかった……おっぱいってクッションになるんだ……。顔を埋めるとこんなに柔らかいんだ……知る由もなかった……。


 そう、何よりもこれが恐ろしくて、私はすっかり帰りたくなった。



「美雪……」



 メガネを装着し、低い声で呼ぶ。美雪さんは「は、はい」とちょっとかしこまって返事をした。そんな彼女に、私は告げた。



「かくれんぼ―――しないか……?」



 美雪さんが数を数え出すやいなや、私はダッシュで玄関を目指した。


 帰っちゃうもんね!このまま帰っちゃうもんねー!!



 二分後。



「ここ……どこだろ……」



 道に迷った。そう、この家の廊下は、『道』と呼んで差し支えないほど立派なものだった。しばらく途方もなく歩いていると、一つの部屋の前に辿りついた。



「もしかすると、部屋の中に隠し扉があって、玄関に続く秘密の通路があるとか」



 そのような推測の元、こっそり部屋の扉を開けてみる。細く隙間が空いたところで、中から異様な音が聞こえてきた。



「はっ……はっ……はっ……」



 なんだろう……?獣が肉を貪っているような……苦しんでる人の息づかいのような……。ごくり。固い音でつばを飲み込む。恐ろしかった。その部屋からは、どこか異様な空気が漏れ出していた。


 でも、怖いもの見たさっていうの?私は隙間から中を覗いてしまった。



「…………」



 絶句した。そこには果たして―――袴姿で恥ずかしげもなく頭からパンティーを被り、壁一面に貼られた美雪さんの写真を眺めている―――あの、サンドラさんの姿があった。



「サンドラさん……?」



 ぽつんと声が漏れる。サンドラさんは一つに結わえたその長い髪をたなびかせて、はっと素早く振り返った。



「あ!わ、わた……!な、なにも見てませんから!ほんとに!全然!」



 こういう時にこんなことを言うのはバカだな~と思うけど、他に言葉が出てこなかった。サンドラさんは私の姿を認めると、気持ちを入れ替えるように息を吐いた。



「入れ。説明しよう」



 頭にパンツをかぶったまま、サンドラさんは真面目に言った。



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