「〝StoM〟」
第92話
「うっわ~すごい……腹立つくらい広い家に住んでるんですね」
着いた先は、美雪さんの自宅だった。自宅と呼ぶのは少しためらうような、むしろお屋敷と言った方がしっくりくる。広大な敷地に建つ、昔ながらの和風の家だった。
「サンドラ、今日はもう結構です」
運転手らしきスーツの人物に美雪さんは告げる。
車に乗っているときに気づいたけど、その人はどうやら外人さんらしかった。私には何系の国とかさっぱり分からないけど、透ける青い目に、銀と金の中間辺りの髪色をしている。長いさらさらの髪は後ろで一つに束ねられていた。
私は思わず見とれた。でも、サンドラさんは一礼だけすると去っていってしまった。
「今の方、運転手さんですか?」
サンドラさんの美しさに、ポーっとしながらたずねる。
「サンドラは私の身の回りのことを全般的に引き受けてくれています。送迎もしてくれますが、運転手ではなく執事になると思います」
「へえ~、執事までいるんですか」
しかも、あんなにかっこいい。
「幼い頃は友達だったんですよ。一緒によく遊びました。サンドラは私の祖父の影響を強く受けていて、日本の文化や歴史が好きなんです。だからこの家に仕えることが夢だったようです」
「ああ……この家、昔ながらの日本のお屋敷って感じですもんね。忍者とか武士がいても不思議じゃなさそう」
「そうなんです、サンドラはとくに、忍者や武士に憧れているんです。忍者の真似事なんかも、よく一緒にしました。でも、執事としてこの家に仕えるようになってからは、一線を引かれている気がします」
そう言って俯く美雪さんは、少し寂しそうに見えた。でも、その後にパッと笑って「案内しますね」と家の中へ歩き出した。
通された部屋のテーブルには、ローストビーフやチキン、赤い苺の乗ったホールケーキなど、意外と一般的なクリスマスらしいディナーが用意されていた。
格式ある風流な家という感じだったから、作法や行儀に気をつけなきゃと思っていたけれど、その空間には落ち着ける庶民らしさがあった。
「なんか意外ですね。もっとおおげさな感じだと思いました」
「今日は私が用意しましたので、それほど本格的なものは……」
「え!美雪さんの手作りですか!?」
「詩絵子さんのお口に合えばいいんですけど」
すぐに帰るつもりだったけど、料理を見ていたらお腹が減ってきた。
ま、食べないで帰るってのもね……?もったいないし……?
そんな訳で、用意されていた料理を私は夢中で食べた。料理は想像以上に美味しかった。
「美雪さん!料理上手なんですね!」
「帝人さんに一度けなされて、それから練習したんです。料理は得意になりました」
「いやほんと、金取れますよこれ!」
料理を頬張る最中、私はハッとする。美雪さんの指が、絆創膏だらけだった。
「美雪さん……!手、怪我……」
もしかして、料理が得意というのは嘘で、本当はこのご馳走を用意するの、物凄く苦労したんじゃ……。わー……それだったら申し訳ないな……。私ってば、ちゃんと味わいもせずに流し込むように食べちゃって……。こんな傷だらけになってるのに……。
しかし、私の懸念とは裏腹に、美雪さんは人差し指を顔の前に立てて笑った。
「これは、か・く・し・あ・じ・ッ、ですよ」
「…………」
とういうような怖いこともあったけど……。
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