「おおっ!? 主任の軌跡がついに明らかに!?」

第62話



 うっすら目を開けてまず、いつもと景色が違うなーと頭のどこかで思った。何気なく横を見る。チビ朔がスースー寝息を立てて眠っていた。



「……」



 やばい。この状況……やばいやつだ。なんだっけ? チビ朔と泊まったんだっけ? でも、服はちゃんと昨日のまま着てる。


 よかったよかった。そういうことはしてないみたい。よく覚えてないけど、この状況で手だしてないなんて、こいつってけっこう紳士じゃーん?


 さ、もう一眠りしよっと。


 毛布を被りなおしたとき、ふと、吹き矢のようにその記憶は滑り込んんできた。



『五十二万八千円です』



 ……やばい。なんか、いろいろ思い出してきた……。

 そうだよそうだよ! そんな大金使い込んじゃったんだよ! そんでチビ朔が肩代わりしてくれて、私が体で払うとかなんとか言っちゃって……。でもどうやら、こいつは手を出していなくって……。



「やだやだ~また忘れたい……」



 くう~~記憶よ、蘇らないで。けれども、また余計なことを思い出してしまった。



『い、一億かなー……』


『分かった。それで愛してくれる?』



 サーーー…と血の気が引いていく。


 わ、わたし最低じゃん! こいつの気持ち知ってて超甘えてる! チビ朔はあの時、どんな顔してたんだっけ? 思い出せないよ……。


 ていうかチビ朔って、実はいい奴なんじゃない? 散々ののしってきたけど、私の方がよっぽど極悪非道なんじゃない? 朔さんって呼ぶべきじゃない?


 いたたまれなくなり、私は荷物をまとめて寝ているチビ朔に言った。



「お金はどうにか返すから。ではこれにて」



 そうしてホテルを出たはいいものの、外へやってきて私は思わずぽかんとした。外は真っ暗で、カラフルなネオンが点灯している。


 スマホで日時を確認してみると、どうやら一晩泊まって昼も寝どおし、また夜がやってきたようだった。



「……やばい」



 会社行ってない!! 無断欠勤じゃん!!

 一気にパニックになってしまったけど、そこでまた思い出した。



『向井帝人の妻の、美雪といいます』


『明日退社してから、話し合いを……』



 そうだ。そうだそうだそうだそうだそうだ。

 主任に奥さんがいたんだっけ! これ一番忘れたかったよー!


 スマホを見てさらにハッとする。もう退社の時間はとっくに過ぎている。



「うわー主任まだいるかな……」



 主任の話がどんなものか、まったく想像はできないけど、私は急いで会社へ走った。



「きちゃった……」



 暗い会社に入り、いつものオフィスまでやってきた。室内の照明は落とされている。そーとドアを開けて、中をうかがってみる。



「誰だ」



 奥の方から、その声は即座に言った。


 うわー主任いたよ…。それもそっか。待ちぼうけとか大好きそうだもんね……。


 見てみると、主任は奥の専用デスクでパソコンに向かい、こちらを見ないまま尋ねているらしかった。



「し、清水です……」


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