第60話
「そうですか。すでに充分、振り回されていると思いますけど。ヌンチャクの素質ありですよ」
「振り回されてはいるけどさ……ていうかあんたなんなの? 俺のことどう思ってんの?」
そういえばベッドの中で抱き合っているところを見られたんだっけ、と思い出し、朔は不思議に思いながら尋ねました。
「朔くん。僕は詩絵子様をお慕いしています。そしてあなたも詩絵子様をお慕いしています。色々と頑張っているのはよく知っています」
「なんでよく知ってんだよ」
「僕はですね」
「おい答えろよ」
「朔くんを振り回している詩絵子様も、そうして頑張って詩絵子様に振り回されている朔くんも、全部まとめて可愛く思うのですよ」
朔はあんぐり口を開きました。
「へ、変態……! お前、俺が思っているよりずっとやばい変態だな!?」
「朔くん、同じ穴のむじなですよ」
「そんなわけあるか! 俺はあいつの子供っぽいところが好きなんじゃねーよ!」
「そうなんですか? むしろどこに子供っぽくないところがありますか?」
心底不思議そうに、主任は首をかしげます。
うわー清水、お前ひでー言われようだな……。
「それにしても、あれはいいと思いました」
主任は唐突に言いました。
「あ、あれ……? あれってなに」
「二人が双子の兄妹という設定ですよ。お兄ちゃんとその妹……お兄ちゃんとその妹……。最高じゃないですか。一緒に我が家へやってきて、ずっと戯れていてほしいです」
「……」
な、なんだよこいつは! 普通に危ない人じゃん! じゃ、なにか!?
俺が当たり前のようにこいつの家でくつろいでる時とか、おかゆご馳走になってる時とか、実はすげー幸せだったのかよ!?
いやいや! その前に! なんで双子の兄妹って言い訳に使ったの知ってんだよ!
「朔くん、これはなかなかに、いいアイデアではないですか? 身の回りの世話はすべて僕に任せてください」
主任はハツラツと尋ねます。朔は数歩後ろに下がり、そこから主任へ叫びました。
「い、いくかアホ! 俺はお前に可愛がられたくねーんだよ! ふざけんじゃねーよこのドエム!」
ぴたり。
主任の動きが止まります。
「朔様……」
ひえ~~~……!
なんで『朔くん』から『朔様』に昇格したの!? 今こいつの中でなにが起こったの!?
「と、とにかく! なんか事情があるんなら、奥さんのことちゃんとあいつに説明しろよ!?」
そう叫びますと、主任はほっこりした顔になりました。
「さすがお兄ちゃん。妹のことは放っておけないんですね」
「勝手に妄想して楽しむなー! あいつ傷心中で、本当は今大チャンスなんだからな! 遠慮しねーぞ!」
「そうしてまた振り回されるのですね」
「だから嬉しそうにすんな!」
身の危険を感じたので、朔はその場を去ろうとしました。しかし背を向けたところで呼び止められます。
「汐崎朔様、これを忘れるところでした」
そう言って主任がふところから出したのは、厚みのある茶封筒でした。
「なにこれ」
言いつつも封を切ってみます。中には札束が控えておりました。
「本日、詩絵子様が使われました店の支払いです。立て替えてくれたでしょう」
「……」
だーかーらー!
なんで知ってんだよそれをよお!!
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