第57話



「分かった。それで愛してくれる?」


「う、うそうそ! 今のなし! あんた本当に用意しそうで怖いから!」


「あー! また怖いっつった! それやめろー!」


「ほ、本当のことだもん!」


「それすげー傷つくの! もう『怖い』言うの禁止!」


「ええ!?」



 あんまりバカらしくなったので、朔はソファーに座りなおして残っていた酒を一気に飲み干しました。



「はあ~~。もういいや。お前と話してるとなんかムードなくなる。ほら、はやくベッドで寝ろ」


「う、うん」



 追い払うように言うと、詩絵子は大人しく従い、ベッドへ入っていきました。


 朔もすぐに眠ろうと横になりました。しかしソファーへ背を倒したところ、なにかに当たります。



「って……なんで居んだよ!」



 ソファーの端には、詩絵子が丸く座っておりました。毛布にくるまって、地蔵のように鎮座しています。



「なに……なんだよ。お前がソファーで寝るの?」


 詩絵子はちんまり座るばかりで返事をよこさないので、朔はベッドへ移動しました。なぜだか、その後を詩絵子がてくてくとついてきます。



「なんだよ! ベッドで寝んのかよ!?」



 踵を返してソファーに戻ります。やはり詩絵子はついてきます。二人はしばらくソファーとベッドの間を行ったり来たりしました。


 てってって、てってって。朔の動きに合わせて、詩絵子はことごことくついてきます。



「あー! もう!」



 マジなんだよ! てちてちついてきやがって! なんか可愛いじゃんか!!



「なんなんだよお前はよー! 怖いって言ったじゃんか!」



 詩絵子はもじもじして、気まずそうに答えます。



「えーっと……いやね? 本当に悪いんだけどさ……完全にあんたの弱みにつけこんだ私のわがままなんだけど……」


「なに」


「一人じゃ寝れそうにないかなーって……」



………………………………………………………………………………………………………………。



「お前な、俺の理性なめすぎ。常人よりずっと少ねーんだぞ」


「おっ、見た目どおりだね」


「うるせーよ」


「ほんとさ、隣にいてくれるだけでいいからさ。せっかく広いベッドなんだし、近くに人がいると安心して眠れると思うんだ」



 言い訳するように、詩絵子は一息に言います。



「じゃなにか? やらしいことはダメだけど、俺に抱き枕か湯たんぽになれってことか?」


「そういうことだねー」



 彼女はさっくり答えます。朔はすぐにソファーの背もたれを叩きました。



「『そういうことだねー』じゃねーよ! そんなん無理! 却下! 我慢できない自信がある!」


「えー? 私が泣いても?」


「やめない! そのまま続行コース!」



 そこまで言ってやると、むぐ、と口をつぐみ、詩絵子は枕を抱えました。



「……分かった……。それはそうだよね。私ってさ、ときどき自分でもびっくりしちゃうくらい性格悪いなーって思うんだよね」


「自覚はあるんだ?」


「そりゃあるでしょ。あまりにもでっかい欠点だから、気づかないふりする方が無理だし。よくこんな女に惚れたね?」


「やかましーわ」


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