第52話
「あーあの時ですね。あの子めちゃ可愛いんすよ」
「可愛いとかどうでもいいんだよ。つらいなーって言ってるときに、『俺も実はこんなことがあって』みたいに話してたじゃん? まずは話を聞け。よく聞いてるって分かるようにして聞け」
朔は宙のある一点を押すように、指をさしました。
「いやーあんまり可愛いから舞い上がっちゃって。自分でもなに喋ってるかよく覚えてないんすよ。あんな可愛い子でもホストクラブ来るんすね?」
「失格ーお客を顔で見てるのがもう失格ーブブー」
「えーそんなもんっすか? モデル並みに可愛いんすよ?」
「誰であっても世界一のいい女のように扱いなよ。みんな特別扱いされたくて来てるんだからさ」
「なるほどー! そういう姿勢が大事なんすね! 参考になるっす!」
ギンガは感激した様子です。
「他には? 他にもなにかありませんか!?」
彼があんまり目を輝かせるので、朔はちょっと世話をしてやりたくなりました。
「よし。そんじゃまず、お前に一番足りてない『話を聞く』ってところだ」
「はい! 足りてないっす!」
「まずは話を聞くっていうのがどういうふうにいいのか知ってた方がいい。相手を喋らすのには、三つのメリットがある」
朔は前のめりになって、顔の横に人差し指を立てました。
「メリットその①、話すことでストレス発散になり、気持ちよく金を支払うようになる。
メリットその②、話の中から個人情報を喋らせておけば、支払いが滞った場合の対処がしやすい。メリットその③、自分の話を聞いてくれる相手を、人は無意識のうちに信用してしまう」
ギンガはその糸のような目を、めいっぱい広げました。しかしそこまで言い切ったところで、また詩絵子の言葉に責められます。
『女ったらし! そういう奴!』
……うわーマジじゃん。俺ってまさにそういうやつじゃん……。こんなメリット、得意げに言うことじゃねーよー……。
「すっ、すげー! すべては金に繋がってる! すげー分析してるっす! 計算づくってやつっすね!?」
ギンガは目からうろこが落ちたようにはしゃぎました。
「……ちなみにさ、今みたいに理由を三つ挙げると納得しやすいっていうのも人の心理な」
「! そこまで計算っすか! 計算の鬼っすね! 電卓になれるんじゃないっすか?」
「いや意味わからん」
そうしたとき、店の方が騒がしいように感じました。二人はそちらへ顔を向けます。
「なんか騒がしいっすねえ」
「支払いで揉めてんのかなあ」
二人は店へ戻って様子を見てみました。受付のところで、どうやら酔っぱらった女が騒いでいるようです。
「なによー!! 入るときは子供扱いしちゃってさあ!!五百円しか持ってないって言ってんじゃん! 私の全財産をバカにする気ー!?」
朔は思わず吹き出しました。そこでスタッフに腕を捕まれ暴れているのは、いっけん子供のように思いましたが、よくよく見てみると清水詩絵子だったのです。
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