第51話
ほんとじゃん……俺、本当にあいつの言うとおり最低なやつじゃん! バッチバッチじゃねーよ。あ、落ちたなってほくそ笑んでたよー。最低だあ……。
いや待て待て。でも女の子側も疑似恋愛したくてきてるわけじゃん? 失恋の特効薬は新しい恋って言うじゃんか? 実際に失恋の傷を癒してんだから、双方の利害は一致してね?
そうだよそうだよ、俺は心の穴を埋めたはずだよ。なにも問題ねーじゃん。まあそのあとでまたでっかい穴をあけることになるんだけど。
って……やっぱ最低じゃん! そうなのか? 俺ってあいつの言うとおり、最低な極悪非道なのか?
いつもならすぐに帰るのですが、落ち込んだので、朔はバックヤードで少し酒を飲みました。そしてスマホをチェックしました。けれどお客からの連絡ばかりで、『清水詩絵子』からの連絡は、やはり今日もありませんでした。
くそー。あいつ連絡先知ってるくせに、メールくらいしろよ。今日は俺、風邪ひいてたじゃん。でもまあ……そういうタイプじゃねーか。
「あれー? レオさん今日直帰じゃないんすねー珍しい」
男が声をかけてきました。細目でキツネ顔のノッポな男です。レオというのは、汐崎朔のホスト名でした。朔は彼の名前を思い出そうとしましたが、どうにも記憶に見当たりません。
「えーっと……」
「あ、知らないっすよね。俺ギンガっていいます。もう三か月はいますけど、レオさんとお話するの初めてっすもんね。あ、どうぞ」
彼はその場にしゃがみ込み、朔のグラスにワインを注ぎました。
「あ、隣座っていいけど」
広いソファーに腰を下ろしていたので、朔は隣を示して言いました。
「めっそうもないっすよー! ナンバーワンのレオさんの隣なんて。お話できただけでも光栄っす。いつも誰より遅くきて誰より早く帰るじゃないっすか? みんなで話してたんすよ、ヒーローみたいだって」
「ヒーロー?」
「ほら、ヒーローってだいたい物語の終盤に現われて、かっこよく敵を倒して帰ってくじゃないっすか?」
「ああ、そういうこと」
よく分からなかったが、朔はそう言ってグラスに口をつけました。
「いやー実はレオさんにアドバイスしてもらいたなーって思ってたんすよね。どうすれば指名増やせますかねー」
「アドバイスって……あんた何歳だっけ?」
「25っす」
「あ、年上」
「あー、自分そういうの全然気にしないんで。年功序列はクソくらえ派っすから」
朔は少し考えます。一度ギンガが接客しているのをみたことがあったので、そこから問題点を抽出しました。
「うーん、一回しかみたことないからよく分かんねーけど、あれは止めたがいいね。お客さんに対しての主語が『俺』」
ギンガはホオー、と口を丸くします。
「せっかく女の子が喋ってくれてんのに、話を全部自分に繋げちゃってんだよね。それってこっちとしては話しやすいの分かるんだけどさ。俺が見たとき、なんかごたごたあって辛いって言ってるキャバ嬢の子だったんだけど」
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