第28話



『やべッ! あのオバハン、カッター出したぞ!』



 これにはチビ朔も焦り、急いで裏口のドアに手をかけた。


 がちゃがちゃ!


『…………』



 ドアノブの硬い手ごたえに弾かれ、チビ朔は一瞬にして目を点にする。



『……鍵、かかってる……』



 あまりに不憫だったので、美里は責めることが出来なかったという。二人は急いで正面玄関へまわった。



『な! な! 助ける時のキメ台詞、なんにしようか!?』



 美里の前を走っていたチビ朔は、嬉しそうに後ろへ顔を向ける。こいつは本当にかっこつけることしか考えてないな、と美里は半ば呆れていた。



『そんなのいらないでしょ。今あそこに駆けつければ、詩絵子は問答無用であんたに感謝するでしょ』


『いや感謝だけじゃなくってさ、まるごとハートを鷲づかみにしてやりたいじゃん? それにはカッコイイキメ台詞だよ、やっぱ。俺の女に手を出すな!とか? それともあのオバハンに、今度こいつに手ぇだしたら殺すよ?みたいにクールに脅した方がいいか? っかーー!! どっちもカッケーぜ!』



 しかし二人が駆けつけた時、倉庫の扉は開かれており、そこには主任の姿があったそーな。


 この時チビ朔は、ハニワみたいな顔をして立ち止まった。



『主任……来たんだ……。あの人はほんと、詩絵子のこと見張りすぎじゃない? ていうか、風邪は大丈夫なのかな』



 美里の言葉に反応し、チビ朔はハニワ顔のまま振り返る。



『え……あいつ、風邪ひいてんの?』


『主任が会社休むくらいだから、かなり重症だと思うんだけど』



 チビ朔は主任の後ろ姿を見つめ、こぼすように呟いた。



『風邪ひいて大変なときでも、彼女のピンチに駆けつける……カッケー……あいつ、カッケーじゃん……』



 呆然としている間に、柊さんたちが飛び出してきた。二人は慌てて廊下の影に隠れ、彼女たちの後姿を見送る。



『主任が来てくれてよかったわ。あのオバハンも、さすがに懲りたでしょ』



 美里は心底そう思い、安堵の息を吐いた。



『ほんとだ……あいつ、権力もあるし、簡単に解決できる……かっけーよ……』



 それから私が泣き出して、主任が私を慰める場面まで二人はしっかり見ていたらしい。



『いちゃついてる……あいつら、なんだかんだ言って仲良しだ……』



 美里はもう帰った方がいいと思ったが、廊下の壁に張り付いて私たちを凝視するチビ朔を見ていると、なかなか言い出せなかったという。


 やがて私が主任を支えながら出てくる。するとチビ朔は逃げ出す子犬のように、素早く近くの部屋へ身を潜めた。



『あいつら……いっちゃった……』


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