第12話 ごめん。そして、ありがとう。


———————————琴音のその一言に心臓がドクンと跳ねた。


叶「なんだよ。急に…」

琴音「最近さ、前よりも会う時間が多くなったけど…身体はここにあるのに心はここにない感じがしてたんだよね。」

叶「……」

琴音「自分では気づいてないみたいだね。さっきの水族館だってさ。一緒にいたけどずっと気にしてたでしょ?久米月くんのこと。」

叶「何言ってるんだよ!そんなことない!」

琴音「ほらっ、ムキになってるじゃん」【おどけるように言う】

叶「………………」【言葉が出ない叶】

琴音「言葉も出ないか…。それが本音だね。」

叶「………正直自分でもわからないんだ。琴音のことは好きだよ。可愛くて優しくていつも俺のこと気遣ってくれて、ホント。最高の恋人だ……そう思ってる。」

琴音「うん。」

叶「でも……揺れてる自分がいる。その反面、認めたくない自分がいる。戦ってる。」

琴音「青葉くんのこと…気になるんでしょ?その隣にいる女性のことも。」

叶「実はあいつ…琴音が告白してくれる前に、俺に告白してきたんだ。好きですって。でも、俺は男は好きじゃない!無理だ。って言ったんだ。本当に無理だから。酷い言葉を浴びせたりもした。それでも、あいつは優しくて、最初は女の子と仲良くしてる所を見せつければ、あきらめてくれるのかなとか思ってた。その後に、琴音が気持ちを伝えてくれて、付き合うことになった。だから、青葉にその姿を見せれば完全に諦めてくれるかも。って思ったんだ。でも、あいつは諦めるというより、さらに俺に優しくなって琴音とのこと、応援してくれるようになった。」

琴音「…………」

叶「その反応は俺が考えてるものとかなり違ってて…。その後からかな。青葉の反応が目につくようになった。……そうだな。認めるよ。青葉のことが気になってる。でも、この気持ちが何なのかわからない。…ごめん。」

琴音「ううん。さっき水族館で久米月くんと一緒にいた女の子いたでしょ?」

叶「…あー、彼女だろ?あの感じは。」

琴音「違うって。あの子は、久米月くんの実の妹さん。母方の性を名乗ってるらしいよ。金曜に聞いた。」

叶「金曜…え!ってか琴音、知ってたのか?あの子のこと」

琴音「うん。知ってたよ。だって私が水族館に行こうって誘ったんだもん。」

叶「琴音が…何で?」

琴音「叶が素直にならないからじゃん。女の勘なめないでよ!」

叶「ほんと…ごめん。」

琴音「いいの。…叶、別れよっか。」

叶「え…琴音」

琴音「私、自分のことを好きじゃない人とは付き合えないの。」

叶「ごめん。琴音」

琴音「…………謝らないで。私が叶を振ったんだよ。だから謝らないで。」

叶「………………」

琴音「一緒にいれて、色々なところに行けて…本当楽しかった。」

叶「俺も…琴音に支えられっぱなしだった。ありがとう」

琴音「じゃ、私行くね。」

叶「ごめん、本当。ありがとう」



【叶に背中を向けて歩き出す。目には涙】

琴音『本当は、離れたくないって。別れたくない。私のことを見てほしい。でも、言えないよ。久米月くんのことを見てる叶の横顔が切なくて…これからずっと一緒にいたとしても、叶のことを苦しめてしまいそうだから。大好きだから…できないよ。そんなこと。』




———ごめん。琴音。そして、ありがとう。何かがホロッと取れた気がしたんだ。

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