キュルケとの出会い⑦
決意を新たに森を進む。
いつもの人に隠れて薬草を探すルートではなく、ある程度狩りにも適したルートを選択してしまったせいで森の中で絡まれることになったわけだ。
あれはもう避けたい。
「人気のないところに……で、暗くなる前に帰るぞ……」
生まれ育ったフレーメル近郊だからできる見知らぬ山道の開拓を続け、ようやく数匹のスライムを発見した。
「よし。テイ……ん?」
よく見ると五匹のスライムは、四対一の様相を呈していた。
「なんだこれ……スライムっていじめとかあるのか……?」
スライムは魔物の一種ではあるものの、危険度は虫と同じくらいなものだ。
なんならクモやハチのほうが危険なものもいるくらいだから、こうして争っているスライムの間近まで接近しても問題はない。
「できれば強いやつが良かったけど……」
そう。どうせならたとえスライムでも、ちょっと特別なやつだったり、少し強かったり大きかったりという特徴があればと思ってたけど、この状況を見てしまうとなぁ……。
「助けてやるか」
そういった瞬間、どっちを向いてるんだがわからないスライムたちの視線が一斉にこちらを向いた気がした。
「きゅー」
いじめられていた一匹がか細い声で鳴く。スライムって鳴くのか……。初めて知った。
「確かスライムをテイムするコツは……いいか。とりあえずテイムだ」
テイムの技術自体はあの本を読んだだけで理解はできていた。
あとはもう、対象を指定して手をかざすだけだ。
『助けてやる変わりに従え』というのもなんとも横暴な気がしたが、まあいいだろう。
「きゅー!」
「おお……これがテイムか」
一瞬で心が通った気がした。
魔物と心を通わせるというのは不思議な感覚だったが、これは面白いかもしれない。なんとなくあのスライムが考えてることがわかるようになった気がした。
「いやお前……その状況でここは俺に任せて逃げろみたいな雰囲気になられても……」
「きゅっ!」
完全に追い込まれているというのになかなか強気なやつだった。
もしかしてさっきか細く鳴いたように聞こえたのもなにか別の意味があったかもしれない。いやきっとあったんだろうな……。
「スライムくらいなら俺でも追い払えるっての!」
「きゅっ! きゅっ!」
「危ない! じゃないんだよ。危ないのはお前だっての!」
「きゅきゅー!」
「わかったわかった。いいからちょっと下がってろ」
とりあえずよくわからない光景を前に四匹いたスライムもすごすご立ち去っていく。
その様子を見てなぜか残った一匹がドヤァといった雰囲気を醸し出していた。
「きゅっ! きゅっきゅっ!」
「助けはいらなかったけど礼は言う、か……なんかスライムって、こんな面白い生き物だったのか?」
動きもコミカルだし、いやまぁスライムの全部が全部こいつみたいな感じじゃないとは思うけど。思いたい……。
いやまぁ、実際いじめられてたし浮いてたんだと思うけど。
「きゅきゅきゅー!」
「ああ、これからは守ってくれるって言ってるんだな」
「きゅっ! きゅっ!」
「意外と何言ってるかわかるもんだな……」
テイムの不思議な一面を知った気がする。
「テイムの感覚はつかめたし……」
「きゅー?」
こいつをテイムしたままだったばかりに他の魔物をテイムできなかったとなると笑えない。
キャパシティが決められているのであれば、いつまでもスライムをテイムし続けておきたくもないけど……。
「どうするか」
「きゅっ! きゅっ!」
少し名残惜しいが、この面白い生き物は野生でもたくましくやる気はする。
お互いのために一度、テイムは解消しておくか。
「きゅっ?」
不思議そうな顔をするスライムがかわいかったが、テイムの解除を行う。
「元気で暮らせよ」
「きゅー!」
「いや待て、解除したよな?」
「きゅっ! きゅっ!」
ぴょこぴょこ足の周りを飛び回ってなにか訴えかけてくるスライムに困惑する。
テイムを解除して付いてくるという事例は、あの本には書いていなかったはずだ。いや……解除が不十分なんだろうか……。
「どうするか……」
「きゅきゅっ!」
「こら、乗るな乗るな」
木々をうまく利用して俺の肩までのぼってきやがった。触るとほんのり冷たく、気持ちいい。なぜか触られたほうのスライムも気持ちよさそうにしていた。
「まあ、来たいなら来てもいいけど……」
スライムくらいなら別にいいだろう。無害すぎて誰も嫌がらないはずだ。
「きゅきゅー!」
「よろしくな。えっと……」
そういえば呼ぶ名前もなかったことに気づく。
いくらなんでもスライムと呼ぶのはためらわれるから名前をつけることにしよう。
「そうだな……キュルケでいいか?」
「きゅきゅー!」
嬉しそうに肩ではしゃぐキュルケ。気に入ってもらえたようで何よりだ。
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