キュルケとの出会い①

「いらっしゃいませ。リントさん」

「ルミさん。いつもどおりの報告なんですが……」

「はーい。薬草類と、お、今日は三匹も仕留めてきたんですね!」

「一応……」


 屈託なく笑いかけてくれるルミさん。

 辺境のギルドであるフレーメルにとって唯一と言っても良い若い女性受付嬢であり、当然ながら冒険者たちに声もかけられることが多い存在。

 フレーメルギルドの看板娘でありアイドルがこの、ルミさんだった。

 その可愛らしい容姿だけでなく、俺のようなFランク冒険者にもこうして優しく接してくれるのが人気の秘訣だ。

 だが俺にとってはこの分け隔てない優しさはマイナスに働くことも多かったわけだが……。


「くそ……またあの雑魚が声かけられてんぞ」

「あの野郎こないだのじゃ足りなかったみてぇだな」

「そろそろヤッちまうか? 森での事故は管理してねえよなぁ? ギルドも」

「ぎゃははは。ちげえねえ!」


 絶妙にカウンターの向こうには聞こえないように盛り上がる声がこうして突き刺さる。

 実際に何度も外で襲われている俺からすれば担当はルミさんでないほうがありがたいくらいなのだが、俺がギルドに来ると真っ先にルミさんが声をかけてくれるおかげで針のむしろが続いていた。それもこれも、このフレーメルのギルドで一番弱いのが俺だからなんだけど……。


「頑張りましたね! 今日の分はこれです」

「ありがとうございます」


 ルミさんから銅貨を数枚受け取り、足早にその場をあとにしようとする。

 わざとさっき陰口を叩いていたDランクくらいの冒険者パーティーのそばを通り抜ける。


「わっ!」

「おいおい気をつけろー? 雑魚が」

「何もねえとこで転んでてよく冒険者なんてやってられるなぁ?」

「ぎゃはは」


 足を引っ掛けてこられたのにわざと引っかかってこけておいた。


「すみません……」


 こうしてわざと絡まれておけば、外で殺されるまでには至らない。

 こうしてなんとか。取り分を奪われることなく済ませていくという生きる知恵だった。情けない知恵ではあるが……。

 ただ安心はできない。すぐに今日の分の飯と、ちょっと保存の効く食い物に変えておかないといけない。

 本当はそろそろ古くなった装備を変えたいが、そんな金額を貯めるのはとてもじゃないけど無理だ

 フレーメルで低ランクの冒険者というのは搾取の対象でしかない。それがナイフ一本だとしても、装備を買えるような金額を貯めているとなれば恰好の餌食だろう。


「森でゴブリンとか倒すより、雑魚狩りしていたほうがまあ、安全で美味しいだろうしな……」


 当然違反ではあるんだが、ギルドも取り締まりきれていない。そこに文句を言ったってしょうがない。

 だったらここのルールの中で、出来ることを探すしかない。


「俺はスキルを磨くぞ……なんとしても、何か、例えばこうして薬草を集めていればいつか採取に関するスキルが手に入るかもしれない。そうしたらギルドも目をかけてくれて、こうして日銭を奪われる心配もしないで済む……はずだ」


 そうでなくても俺に生きる道はこれしかないんだ。

 両親が死んでから、後ろ盾も身寄りもない俺が生きていく道はこれしかない。


「頑張ろう……」


 この日も無事家に戻れたことに感謝して、なけなしの装備をボロ布で整備してすぐ、眠りについた。明日も早い。できるだけ人と重ならない時間に出たいからな。


「明日こそ、何かスキルに目覚めますように」


信仰してもいない何者かに祈りながら、眠りについた。

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