リントの特訓 ツノウサギ討伐⑥

「これでこの村は大丈夫!」


 報告にやってきたのはもう日も落ちてからだというのに、さっきの騒ぎも相まって村人が総出で出迎えてくれていた。


「まさか一日で⁉」


 先程の騒ぎを見ていない村人は信じられないと驚愕の表情を浮かべていた。

 Bランクでも油断すればやられる相手だし、普通の村の人からすれば信じられないのはそうだろう。


「リントくん、倒した証拠、出してあげたほうが安心するんじゃない?」

「ああ……」


 さっきビレナが言ってたことがここで生きる。

 収納袋からツノウサギの角と、状態の良い素材を取り出して並べていく。


「嘘……」

「これだけの量……」

「我々が考えていたよりも遥かに多い……」


 出てくる量に戸惑いを隠しきれない様子だったが、村長が皮切りとなって何故か拝み始めてしまった。


「あの……! お名前をお聞かせいただけませんでしょうか!」

「奇跡だ……! 神の使いだ!」

「いやいや、そんな……」


 村人たちの反応に戸惑うが、そんな俺を見てビレナは微笑ましそうに眺めるだけだった。


「とりあえず、これは村のみんなで食べてくれ」


 討伐の証の角以外は大部分を村におすそ分けすることにした。

 これだけの数だとギルドも買い取りに困るだろうし、村も大変な状況だったみたいだからな。

 大体二十匹目くらいから角以外の素材も残せるようになり、最終的にはほとんど傷なく仕留められるようになっていた。

 味はうさぎと同じだから美味しく食べてくれるだろう。


「そんな⁉ 倒してもらっただけでももはやお礼のしようがないというのに」

「気にしなくていいから……」


 そもそも村の様子を見ればギルドに支払った依頼料でかなり大変だったことがわかる。

 そこから無理やり搾取しようとは思わない。それに俺にとっては、この依頼そのものに意味があった。


「これでCランクは確実だねー」

「流石にここまでやればそれなりに実感が湧く」


 ツノウサギは本来、上限を百としてこの地域での討伐を依頼されているものだ。

 報酬はそこまでしか約束されていないが、それでも害獣に指定された動物であり、依頼も出ていたことから、討伐証明さえあれば何体でもギルドの評価にプラスになるであろうことが想像できる。

 そういう意味でこのクエストの存在は大きかったんだ。


「というわけで、気にしないでいいからもらってくれ」

「村に少しでも若い娘がいればお礼の一つもできたのだが……」


 村長の言葉に思わず反応してしまう。


「にゃはは。好きだねえ、リントくん」

「いやいや……そういうわけじゃ」

「まあ何にせ、こんな可愛い子と一緒に居る殿方にそんなことさせられんな」


 私は別にいいけどとか言い出しそうなビレナに喋らせる前に話を変えることにする。


「とりあえず、これで依頼は終わり。これを復興に役立ててくれれば嬉しいよ」

「何から何までありがとうございます……もしまたこの近くに立ち寄られることがあればぜひ。この村で出来ることは何でもいたしましょう」

「ありがと。ついでだしもうちょっと置いていくけど、消費しきれる?」


 こんなに持っていても仕方ないので置けるだけ置いていこうとしたら目を丸くして驚かれた。


「良いのですかっ⁉」

「良いって良いってー」


 なぜかビレナが答えながら収納袋に手を入れていた。

 そっちにどれだけ入ってるかはわからないけどな。


「ありがとうございます! この御恩、一生忘れません。いまは金も何もない村ではありますが、ぜひ今後、何かの際に立ち寄りくだされ。この施しを後悔させないだけのお返しを、必ず」

「おう! そうだ。絶対来てくれ」

「名前覚えたぞ! 活躍してくれよ!」


 結局村人たちが思い思いに家にある消耗品やらなにやらをこれでもかと押し付けられるように持たされることになった。

 そして何より……。


「こんなものしかなくて申し訳ないのですが……これが唯一、村から出せる価値あるものです」


 村長が運ばせてもってきてくれたのは、特産物であるマクロンカボチャだった。それも数がとんでもない。貯蔵していた小屋まるごと渡される勢いだった。

 あまりに多かったので正規の金額で買い取ろうとしたんだが、それも断られた。


「これ、多分あげたツノウサギより王都で売ったら高くなるよ?」

「なにもない田舎の唯一の誇りがこれにございます。それもほとんどツノウサギにやられて困っていたところでしたが……」

「それこそ売ったほうがいいんじゃないのか⁉ 復興にも金も時間もかかるだろうに」


 ビレナの言葉を聞いてなおさら正規の金額を払いたくなるが頑なに受け取ってもらえなかった。


「我々にはその王都まで行く手段も金も、色々のものがございません。それができるのもまた、あなた様の力なのです」

「そうか……」


 確かに通常は輸送だけでかなり危険は伴うだろう。

 こんな田舎の村から運んでいけば値打ちもあがるか。


「結局十分にお返しをもらってしまった」

「それだけリントくんが頑張ったってことだよ!」

「だといいな」


 帰り道、依頼の他に無制限討伐対象の魔物をいくつか練習を兼ねて倒していったが、夜までになんとか、ビレナが提案した五体の討伐をすべて終えることができた。移動手段ギルの存在も大きかったが。


「んふふー。じゃ、近くのギルドに納品して、宿とって今日もしよっか」


 夜モードに入ったビレナと俺の分身をなんとか鎮めながらギルドのある村へ向かった。

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