エルフの森を焼こう

 パチパチ……。


「うわぁ……ほんとにやったんだな……」

「にゃはは!」


 ビレナは本当に楽しそうだった。いい笑顔だ。


「思ったより住み分けが進んでたわね。もうハイエルフになった長老組に従うか、抵抗勢力として残るかになってたみたい」


 ティエラが淡々と告げる。

 エルフの最重要拠点であった聖域を燃やしているわけだが、このあたり、ティエラと長老の間に大きな食い違いがあったようだ。


「長老たちはアホなのか?」

「聖域は長い年月を経て溜まった魔力場、か。それを吸い取ってハイエルフになったらまぁ、その土地に価値がなくなるのは当然だな」


 ベルとバロンが言う通り、ハイエルフになった長老組は致命的な間違いを犯していたのだ。

 聖域は神聖だから聖域なのではない。魔力場だから聖域だったと。

 もはやハイエルフとして力を吸い取ればそこはただの森だ。


「ですが、長老たちにとっては離れがたい土地なんでしょうね」

「もはや場所自体に価値があるように思ってしまっているようね」


 パチパチ。

 火は勢いを増している。


 エルフは本来森の魔力場から力を引き出すことで魔法を使う。

 自然のエネルギーを魔力に変えるわけだ。当然人一人の持つ力より遥かに大きくなる。

 まあただそれをコントロールしなきゃいけない側も当然、それなりのキャパシティを持つことになるわけだ。


「森の魔力はこの山火事で完全に絶てるにしても、長老たちは強いわよ」

「何人いるんだっけ」

「8人」


 ビレナ、リリィ、バロン、ベル、ティエラ、アオイ、俺……足りないな?


「最長老はおそらくその場を動かないから、7人を倒せば最長老に集中できるはず」

「動かない……?」

「正確に言えば動けない、ね」


 聖域の中心。神木と一体化することでこの周囲すべての魔力を操ることができるようになった代わりに感情や自我を失ったのが最長老らしい。

 要するに最長老だけは意思ではなくもはやシステムだ。最後に全員で壊せば良い。


「今回は個人戦ではなくパーティー戦にしたほうがいいでしょうね」


 パーティー戦か。


「ハイエルフは一人一人がリミッターを解放したベルと同等だと思って良いわ」

「魔王7人相手にするってことか……」

「ご主人、私は歴代魔王より強いぞ?」

「勘弁してくれ……」


 とりあえずベルのリミッターなどとうに解除している。

 今回は魔王級のベルの力と、神話級のアオイの力が主戦力だ。


「ふふ。りんと殿にていむしてもらい、力が漲っておりますからな!」


 アオイの加入がなければこんなに早く来るつもりもなかったわけだ。


「ふふん。魔王を殴れるなんて……!」

「これまでの鬱憤を晴らさせてもらえそうね」


 ある意味ビレナとティエラは魔王より怖い。


「どれだけ怪我しても死んでも大丈夫ですからね。一瞬で治しますので」


 そして最も怖いのはこのリリィかもしれなかった。

 バロンと顔を見合わせる。


「頼れる仲間でよかったな」

「全くだな……」


 パーティー戦で最も過酷な役目を背負うのはバロンだ。

 メンバーの中では俺を除いて一番弱いはずが、適性の関係で最前衛に送られる。


「もしもの時のことを書き記してたものはリント殿の家に置いてきてある」


 遺書まで用意されていた。


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