化け物

「おい小娘」


 ベルがアオイを指して小娘と呼んだ。


「はて。このような形ではあるが小娘と呼ばれるほどの齢ではございませぬが?」

「であれば私のことも少しは注意深く見よ」

「何かと思えば……」


 アオイの目が赤く輝き出す。


「龍の目ですね。こうして部分的に変化できることも強い魔物の特徴ですが」

「ギルちゃんもそのうちこうなるかなあー」


 どうなんだろう。

 そんな雑談をしているとアオイがのけぞって叫んだ。


「なっ……!? なぜこのような化け物がここに!?」


 龍に化け物と呼ばれるベル。

 いやまあそうか。悪魔って普通、化け物だよなあ。


「失礼なやつだな。化け物同士だろうに」

「だが……いやまさか……悪魔すら手中に治めたというのか……!? この御仁は」


 まじまじとアオイの視線が突き刺さる。


「これを見た上で判断せよ。テイムを受ければお前の思惑通りにはことは運ばんぞ」

「具体的にはそうだね、エッチなことはされちゃうよね」

「そうですね」


 当たり前のようにいわないでほしい。


「でも逆に言うとそれだけ、よねえ」

「そうだな……人前に出される心配以外はない」

「ちなみにこいつらは悪魔の私相手でも容赦せんからな」


 ベルはアオイを挑発しているのか心配しているのかよくわからない状況だった。


「破廉恥な……」


 アオイが何故か俺のことを軽蔑した目で見てきた。

 俺、何もしてないのに……。


「東方は一夫多妻の文化があまりないらしいですからね」

「そうか。それじゃ余計、ああなるか」

「むむ……ですが、背に腹はかえられぬ事情があるのも事実……」

「いや別にテイムしたら絶対やってるわけじゃないからな!?」


 一応弁明しておいた。

 いやでもテイムしてやらなかった事例、ないな? 人型相手だと。


「私の身体で一族の名誉が守れるというのであれば……致し方なし。リント殿、ぜひお願いいたします」

「そういうことをやるかは別にして、テイムはするよ」

「かたじけない」


 正座したままのアオイが静かに目をつむって待っていた。


「ねえリントくん、この子にあっち、手伝ってもらったらどうかな?」

「あっち?」

「エルフの里」

「あー!」


 確かに良いかもしれない。


「アオイ。俺はアオイの力が増すように協力するし、邪龍討伐も俺たちの目的に一致してる」

「なんと!」

「だからその代わり、俺達の仕事も一つ、手伝ってくれるか?」

「承知した。お安い御用だ」


 なら……。


「テイム」

「おお……これが……不思議な感覚でござるな」


 条件はあっさり飲み込まれる。

 協力関係を築く代わりに力を授ける……なんかこれ、ほんとにテイマーなのかな? まあいいか。


「おお……まさかこうも早く結果が出るものとは……!」


 どうやらアオイに力が漲ってきたらしい。

 いい傾向だ。


「さて、いずれにしても二つ、片付けねばならぬ問題がお有りのご様子。どちらが楽でござるか?」

「エルフでしょうね」


 すぐにリリィが答えた。


「わかった。ここの封印もみたところすぐにどうこうなるものでないとあれば、こちらのことは数千年のうちに済ませれば良いので」

「単位がおかしい……」


 普通は俺が生きてないからな?


「だとしたら必然的にエルフでしょうね」

「この子に付き合うなら、寿命のことはたしかになんとかしないといけないわね」


 動きが決まった。


「よーし! じゃあエルフの里を焼こうー!」


 ビレナが元気に叫んでいた。

 その掛け声はほんとにどうかと思う……。

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