戦闘開始

「大丈夫ですよ。バロンには最大級のバフをかけますから」


 リリィが唱えるたびにバロンの周りを魔力波が駆け巡る。

 永続に回復する魔法。三回までダメージを肩代わりする魔法。根本の防御力を極大強化する魔法。

 どれをとってもこれ、おかしな性能だな……。


「ふむ……では私からも」


 ブワッとアオイの周囲に巨大な何かの魔力が渦巻いたのが見えた。

 次の瞬間には全員の元にその力が届く。


「これは……龍王の加護ですか」

「さよう。短い時間だがそれなりの効果であろう」


 それなりどころの騒ぎではない。

 ちなみに今日はギルも参戦している。龍王の加護を受けて一番劇的な変化を見せたのがギルだった。


「つの……?」

「グルァアアアアアアアアアアアアアアアア」


 頼もしい声が響き渡る。

 そもそもこの森を焼く炎自体がギルによるものだ。

 今日は多少地形がかわろうとも問題ないというか、最初から森の中で燃やして良い場所を分けていたため気にせず暴れてもらえるというわけだ。


「強くなったねー! ギルちゃん!」

「グルルルル」


 ビレナに撫でられてご機嫌なところを見るといつも通りなんだが、ツノが3本生えてその姿はもうその辺の竜種とはまるで違う荘厳さを兼ね備えるものになっている。


「そろそろか」


 ベルが燃え盛る森を見て呟いた。


 前衛がバロン。

 その補佐として動くのが俺とティエラ。

 遊撃にビレナ、ベル、アオイ。

 後衛がリリィ。


「来ます」


 ──キュィィィイイイイイイイイイイイ


「なんだこれ?!」


 突然発生した謎の音を中心に、ズドン、と鈍い音を立てて燃え盛る森全体を何かのエネルギーが覆い潰すように降ってきた。


「まじか……」


 一瞬にして大火は鎮圧されていた。

 聖域に魔力はまだ残っていたようで、その残留した魔力がキラキラと輝きを放っている。


「最長老が動いたのね」

「あのまま火に焼かれるくらいなら炎ごと叩き潰そうってことね」

「逆に言えばあの魔法はいつでもまた来るということか……」


 緊張が高まる。

 そして……。


「お出ましのようですな」


 現れたのは人型の光だった。

 人型とは言ったが不定形の不気味な存在であり、手の数や身体の作りは一体ずつ異なっている。


「あれがハイエルフ……」


 カゲロウと初めて対峙した時を思い出す。

 精霊体だ。強さのレベルが実体とは大きく異なる。

 だがこちらも負けてはいないメンバーだ。


「ふむ……まずはこちらも挨拶といこうかの」


 ベルが頭上に極大の闇魔法を展開させた。


「地獄の業火とやらも、かき消せるかな?」


 森全体を覆い潰すほどの禍々しい黒い巨大な炎が、鎮火されたばかりの森と、そこから姿を現したハイエルフ達に降り注いだ。


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