邪龍の巣

「よしっ! じゃあリントくん、ダンジョン攻略しよっか」


 ビレナがいつも通り勢いだけで俺を送り出そうとする。


「一応近くに私がいれば何か起きても大丈夫ですが……」

「気をつけないといけないのは邪龍本体以外にいるのかしら?」

「ダンジョンの傾向を考えるなら危険度Aクラスはゴロゴロ出てくるでしょうね。基本的には大丈夫ですが、相性の問題でーー」


 そんな話をしていた時だった。


「む? 何か出て来たぞ」


 ベルの声に合わせて全員で邪龍の巣の入口である大穴に目を向ける。


「人……?」

「人型の魔人だとすると……」

「強いのかしら?」

「もし魔人が相手なら、バロンとほぼ互角以上かと」


 魔人。

 魔力の吹き溜りに現れるという悪魔と人が混ざり合ったような存在。悪魔と人のハーフという説や人が魔力を帯びすぎて変化したという説などがある。


「正面からだと勝てないか……」

「まぁ全てが敵というわけでも……いえ、あれは敵ですね」


 リリィの判断は早かった。

 そしてこの場にいた全員がそれに同意した。


 腕より上こそ人型をしていたものの、そこから先に現れたのはさまざまな魔物の混成体。いわゆるキメラになっている。


「おそらくですが……邪龍の放つ闇魔法の魔力に飲まれたのでしょうね……」

「ふむ……まあ何人か餌になる人間が入っておっても不思議はないか」

「もしくは、中で人間を模した何かが生まれそうになっているか」


 いずれにしても強いことは変わりがない。

 ある程度やり合う覚悟を持って、それぞれが獲物に手をかけたその時だった。


「はぁぁあああああああああ」


 ──!?


 一閃。

 突如現れた謎の少女が、いままさに這い出てこようとしていたキメラ魔人を一刀両断していた。


「侍だ!」


 反応が早かったのはビレナだった。


「侍……?」


 少女の特徴だろうか。

 独特の羽織りものにスカートのようでスカートではない足元の服。

 長い艶のある黒髪を後ろで一つに束ねる様子。

 そしてあの武器は……。


「刀を使う東方の国の戦士ですね」

「刀……」


 なんかかっこいいな。


「一撃であれを倒すか……」

「少なくとも私よりは強そうだな」


 ベルとバロンは感心したように眺める。

 注目の的となった少女がようやくこちらに振り向いた。

 そこで初めて俺たちに気がついたようで、わたわたとしながらこちらに走ってきた。なんかさっきまで凛々しい感じだったのに可愛らしくなったな。


「はわわ……申し訳ございませぬ! まさか私の他にこやつを倒さんとするような御仁がいるとは思わず……」

「いや、俺たちも倒そうとしたわけじゃないから」


 好戦的なビレナなんかは狙ってたフシがあるが、それこそ目の前の少女への興味が勝っており気にする素振りはない。


「今の、居合いってやつだよね! すごいすごい!」


 食い気味に懐に入っていくビレナ。


「あわわ……えっと、その……大したことは……」


 あからさまにビレナの扱いに困っていた。


「それにしても、侍というだけで珍しいと思いますが、それがここにどのような用で……?」


 リリィが助け舟をだすように尋ねる。


「そうでござった。探し人をしておりまして」

「探し人か」

「なにやらこの国に、従えた魔物の力を数倍に引き上げる魔物使いがいらっしゃるとか……」


 それって……。


「リントくんだね」

「ご主人さまですね」

「ご主人だな」

「リント殿だろう」

「旦那さまですね」


 やっぱりそうか。


「まさか……! お知り合いでいらっしゃるか!」

「目の前で喋ってるのが、その探し人だよ」


 少女が目を見開いてこちらを見ていた。

 そして次の瞬間。


「お願いでござる! 私を! ていむしてくだされ!」


 手を握って懇願されることになった。

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