誘拐?

「ではご主人さま、いきましょうか」

「ああ、そうだったな」


 小さな二人組にほっこりさせられたところで、本来の目的を思い出す。

 ルミさんを連れてカルメル騎士爵に挨拶に行くんだったか。


「あ、ようこそ。リントさんたち!」

「元気そうで良かった」

「はい! おかげさまで……。本当に皆さんには感謝してもしきれ――」

「じゃ、行こっか」

「えええ⁉」


 ビレナがルミさんを持ち上げて連れ去ろうとしていた。


「これはぁこれは……今や一世を風靡する冒険者様たちにやってきてもらえるなんてねぇ。鼻が高いことで」

「クエル」

「やぁやぁ。あのときはすまなかったねえ」


 ひょうきんな物言いと服装はそのままに、少しやつれたクエルがいた。


「大丈夫だったのか?」

「おかまいなく。あれでも私と何年もやってきたんだぁ、そのうち戻ってくるさ」

「そうか」


 クエルのデュラハンはあの日、無理やり黒魔法の力で暴走させられている。

 もう助からないかと思ったが、アンデッドだしな。よくわからないけど手段はあるのだろう。


「それでぇ? ルミくんをハーレムに加えにキたのかなぁ?」


 その言葉にギルド中の注目が集まった。

 ルミさんの看板娘っぷりが伺い知れるな……。


「もう……冗談ばかり言っていないで仕事してくださいマスター」

「怖い怖い……さて、そしたらこのうるさい小娘をしばらく預かってくれるとぉいうことだぁねえ?」

「言い方が悪い」


 ルミさんも頬を膨らませて抗議していた。かわいい。


「一応、今やうちの貴重な戦力だからねぇ。しっかり返してくれたまえよ?」

「それはもちろん」

「ならよろしい」


 随分あっさりルミさんが自由になる。

 忙しいだろうし少しくらい待つかと思っていたけどな。


「もともとマスターも、リントさんたちが来たらこうなることは予想していましたから」

「なるほど……」


 クエルはああ見えて見た目以外優秀なんだったそう言えば。

 ヴィレントからの評価も高かったはずだ。だから要所であるフレーメルを任されている。

 今だからわかる。

 フレーメルは王都から見ても重要な拠点の一つだ。冒険者の質、レベル。国境を挟んだ位置関係。魔の森の広大かつ潤沢な資源とモンスターたち。何をとっても捨て置けない重要なギルド支部だろう。


「じゃ、行こっか」

「ところでカルメル騎士領ってどっちなんだ?」

「ええっと……割と近くですが……」


 近いならギルはお留守番だな。


「リントくん、その子、連れてきてあげて」

「俺なのか……」

「ご主人さまは飛ぶことも出来ますし、適任だと思いますよ」


 リリィがそっとビレナのほうを見ながらそう告げる。

 確かにルミさんがビレナに手を引かれて走ると、普通に腕の一本や二本は取れそうな感じがある。

 取れてもリリィがいればくっつけられるのも問題だ……。


「というわけで、道案内も兼ねて、お願いします」

「わかった……ということで、ルミさん、いいか?」

「え? あ、はい。ぜひ!」


 胸に手を当ててこちらを見つめるルミさん。なんだ、完全にだきかかえられにきてるぞこれ……?


「えっと……」

「やっぱりこの体勢が一番楽そうなので?」

「そうなのか……?」


 これ以上問答を続けるほうが目立つな……。抱きかかえるように連れ出すことにした。

 ギルドがどよめいたが、対応するよりも早くでることを優先しよう。


「ふふ……リントさんの腕の中、快適ですね」


 そう言ってギュッと首にしがみついてきたルミさんのせいでさらにギルドは混乱に陥っていたが、振り返らずに翼を広げて空に飛び立った。

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