カルメル騎士爵
「ほんとに近くにあったんだな」
「興味がなければ屋敷なんて意識してみてませんもんね」
リリィの言う通り、屋敷なんてそう意識して確認していない。
ましてこの辺りの田舎では屋敷なのか小屋なのかわからない貧乏貴族から、カルメル家のように周囲が森と同化してどこから敷地なのかわからない田舎ならではの事情があったりと、パッと見ても何かよくわからないことが多いからだ。
「とりあえず私が話を通しますので、皆さんはくれぐれもおとなしく……」
よろよろと俺の腕から降りていったルミさんが声を絞り出す。
途中まではそれなりに楽しんでいたようだが途中でスピードを上げたら余裕がなくなったようだった。降りたときには割とグロッキーになっていた。ごめん……。
そして謝らないといけないことはもう一つあった。
「おとなしくってのは……無理だと思うぞ?」
「ええええええ。なんでもうビレナさんあんなところにいるんですかっ!」
俺もなんであんなところにと思う。
この近辺で言えば豪華な屋敷の入口。なぜかビレナはその上の屋根に登って「おぉ〜」と声を上げていた。
「何者だ!」
当然警備が出てくるんだが、こんな田舎の屋敷に大それた警備隊などない。結果的に出てくるのは親族の男衆なんだが、この家はルミさんが一人娘っていってたくらいだもんなぁ……。
「おじさん!」
「なんだルミじゃないか。よーし待ってろよ、いまからおじさんがあそこの不届き者を成敗して――」
「絶対やめてくださいっ⁉ 死んじゃいますよ⁉」
もう若いとはいい難いおじさんが一人、ビレナに向けて警備用の長い棒を突き出していた。
「ビレナ、わかってると思うけど……」
「にゃはは。流石に私だって相手を選ぶって……ねっ!」
屋上でビレナが何者かと交錯したのが見えた。
――カキン
音は遅れてやってくる。
「へえ……ビレナに斬りかかるような子も、ここにはいるのね」
ティエラが感心してそうつぶやく。
ルミさんを見ると頭を抱えていた。
「父さん……」
その言葉を受けてもう一度屋根の上に視線を戻すと、ビレナが楽しそうにおっさんをボコボコにしていた。
「主〜!?」
おじさんが慌ててそちらに駆け寄っていくが、殴られた当人は非常に楽しそうに笑っていた。
ああ、あれがカルメル騎士爵本人なのか……。
◇
「はははは。手荒い歓迎すまなかったねえ」
「手荒くされたのはおっさんの方だけど……」
「がはははは」
カルメル騎士は非常に愉快なひとだった。
「父さん……もう若くないんだから……」
「いやぁなに。冒険者というのは強い相手に一度は挑んでみたいものだろう? なぁ?」
俺に同意を求められても困るんだがな……。
「なーるほど。クールなのが君の魅力かい。それでうちの娘もほの字なわけだ」
「ちょっとお父さん!?」
「がはははは」
終始こんな形でルミさんが振り回されていた。
とてもこないだまでビハイドに良いようにされていたとは思えないな。
「いやぁ、あの件はすまなかったなぁ。あんたたちには大いに迷惑をかけた」
さっと頭を下げるカルメル。
貴族らしさのない気持ちのいい男だった。
「にゃはは。ま、いいよいいよ。おじちゃん面白い戦い方だったしね」
「基準はそこか……」
一見するとボコボコにしていただけのビレナだったが、何かしら得られるものはあったらしい。
そりゃまぁ、元Bランク冒険者、スタンピードを止めた英雄だもんな。
何が強いのかイマイチわからなかったが、と思っていたらリリィが補足してくれた。
「呪いの魔剣ですか……」
「さすがは聖女様ってか。そのとおり。こいつは呪われてるんだが、俺の相棒だ」
「効果は……」
「あー、よくわからん! が、俺の相棒だ! がはははは」
呪いの効果もわからず魔剣を使ってるのもすごい話だな……。
「ご主人さま、おそらくあれは持ち主の寿命を吸い取るオーソドックスなものです」
「あー……」
「なので、ついでです。なんとかしましょう」
「それを何とかするのは私よねぇ……」
ティエラがぼやく。
まぁでも、嫌そうな顔はしてないからなんとかしてくれるんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます