少年少女
「リントくん、サインとかしてあげたら?」
「サイン? 何書いたらいいんだ……?」
「書いてくれるんですかっ!?」
途端に目を輝かせる少年少女に思わず顔がほころんだ。
「ご主人さま、せっかくならカゲロウも見せてあげて、ついでに刻印にしてあげたらどうですか?」
「い、いいんですか……!?」
「むしろいいのか? 結構大事そうな剣と……杖もか?! 大丈夫か? 杖って刻印入れたらなんかよくわからないことになるんじゃ……?」
武器のことはよくわからないけどなんかそういうのは合った気がする。
困ったときはリリィだ。振り返るとしっかり説明してくれた。
「大丈夫ですよ。杖には確かに加護を与える刻印等はありますが、見たところシンプルなものですから。ここにカゲロウの火で刻印してあげれば大丈夫です。なんなら私が祝福もしますし」
冒険者ギルドがざわついた。
聖女の祝福はそれだけでものの価値が三段階跳ね上がるだけの力を秘めているからだ。だがそうなると心配なのはこの子たちだが……。狙われたりしないかだろうか……。
「だ、大丈夫……です! 私たち、ちゃんとできますっ!」
それまで男の子の後ろに隠れていた女の子が杖をキュッと握って喋った。
「ふふ。いい子ですね。白魔法をすでにかなり覚えていますね」
「は……はい! 私も聖女様みたいに、立派なヒーラーになりたいです!」
「きっとなれます」
ポンポンと、リリィが女の子の頭を撫でてやっていた。女の子はほわほわと擬音が聞こえてきそうな状態になりながらそれを受け止める。
というか今、当たり前のように鑑定してたな……。鑑定能力だけでもBランク冒険者や下級貴族くらいの稼ぎになるんだけど……。
まあいいか。
「じゃあ書いていいのか?」
「書く内容は旦那様の二つ名を冠してこのあたりがどうかしら?」
ティエラが色々候補を出してくれている。助かる。
が、それどころじゃない単語が聞こえた。
「二つ名……?」
「前回の緑桜隊との戦いで旦那様にも二つ名が定まってきてたから」
「そうなの……?」
いつの間に……?
ということはこの文言の頭にあるこれがそうか……。
「伏龍……?」
「あれだけの力を持ちながらこれまで名を上げることのなかった未完の大器。それがご主人さまの現在の評価です」
「なるほど……」
伏龍……伏龍か。実感はないな。
「ま、実際には伏せてないくらいもう強いんだけど」
「あとはドラゴンテイマーだし、竜を入れたかったんでしょうね。もうちょっとカゲロウちゃんが目立ってたら妖狐とかつけられてたかも」
なるほど……。
ま、いつまでも俺の話をしていても仕方ない。
「とりあえず、書くけど……ああ、名前は?」
せっかくなら二人の名前も彫ってあげるべきだと言われてそうすることにした。
「えっと、僕がリル、こっちがルリです!」
「リルとルリ……?」
「はいっ! 双子なんです」
「そうなのか!」
男女だからかそんなに似ていなかったので気づかなかった。なるほど。それでコンビでやってるわけか。
「じゃあ行くぞ」
精霊召喚でカゲロウを呼び出すと、いつもどおり俺の回りを何周か嬉しそうに飛び回ってから頭を擦り寄せてくる。
「「わぁ……」」
二人とも姿を表したカゲロウに感動している様子だった。そしてそれは二人だけでなく、精霊憑依を行った俺を見た周囲の冒険者たちにとっても、感情を揺さぶる何かが合ったらしい。
「じゃあカゲロウ、いつもどおり頼む」
「キュクー!」
すぐに俺にまとわりつくように憑依してくれるカゲロウ。
それを待ってから、2人の武器である剣と杖にカゲロウの火を使って刻印する。冷静に考えると剣に簡単に文字彫れる火力があるのか……カゲロウ……。
「これを見てリントくんに直接手を出すのもいなくなるだろうし、この子たちはそもそも手を出される心配もないしね」
「そうなのか……?」
「この若さでBランク。もう十分に高位のランカー。いまもフレーメルで七位と八位に名前があるくらいだから」
「Bランクっ!?」
今度はこっちがびっくりさせられる番だった。
二人はなにやら照れて顔をそらしているが、Bランクって俺より強いんじゃ……?
「リントくんはもうAランクだからっ!」
「それに前回の緑桜との戦いでその力はすでにSランク相当って知れ渡ってますからね。自覚をしないと」
といってもなぁ……。まあそれはおいおい考えよう。
「では、この武器でもっと名を挙げていってもらいましょう」
そういうとリリィから白い何かが武器に降りかかる。
祝福だ。俺の意味をなさない刻印が光り輝き、武器に力を与える特別なものに変化していく。
「今回はリントくんにできた初めてのファンだから大サービスだね!」
「そりゃ毎回リリィの祝福をしてたら行列になるわな」
おそらくそういった魂胆で動こうとしていた酒場の連中の動きが固まった。
「あのっ! 本当にありがとうございました!」
「ありがとうございましたっ!」
「ああ、その……頑張れよ」
「「はいっ!」」
それだけ言うとパタパタと二人はギルドの出入り口に走っていった。嬉しそうに話す二人、特にルリの方は俺を前にしていたときは緊張していたのだろう。まるで違う表情で、それでも嬉しそうなことだけはわかる顔をしていた。
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