化けの皮
「まさか。初見でこれを躱されてしまうとは」
「その割に大して焦ってないように見えるが?」
こんな会話をしながらもリアミルの攻撃の手は緩まない。
ひたすら三方に分かれて攻撃を繰り返すし、俺も確信を持って本体を見抜けないから三体全てへの対応を余儀なくされている。持久戦になれば先に疲れるのは俺か……。
「素晴らしいですね。本当に」
柔和な笑みでそう言った瞬間だった。
「後ろの聖女、守らないで良いんですか?」
「守る?」
何を言ってるんだと思ったら、分身が4体になった。
「っ!」
突然のこと過ぎて身体がついていかなかったが、4体目の分身は俺ではなくリリィに向かっていった。それを見て安心する。四体目が襲いかかっていたらダメージもあったかもしれない。
「ふふ。最後衛のヒーラーをあんなに無防備に立たせるなんて」
「馬鹿だな?」
「は?」
よくわかってない様子のリアメルが戸惑った様子を見せた。
ここまででわかったことがある。分身は無感動。戸惑ったやつが本体だ。そして今回、表情が変わったのは俺の元へ来た三体全てだ。
俺は三体の攻撃を躱すこともなく受け止める。
「なっ!?」
三者三様驚いた表情でこちらを見ている。
「どうして……?」
「アンタは根っこから悪いやつになれないタイプだろ?」
狙いはわかる。
4体目の分身の出現。か弱いヒーラーのリリィを狙う卑劣な攻撃。動揺した俺はそちらを守りに動く。そこに想定外の実体のある分身をぶつけて来たわけだ。
「くっ……」
だが実体のある分身は分離すればするほど、距離が離れれば離れるほど威力が下がる。これはここまで戦ってればわかることだった。
これまでは一点集中だから躱す必要があっただけで、三等分された力ならカゲロウを纏う俺に攻撃が届くことはない。そしてリリィのもとには実体のない分身しか向かっていないこともなんとなく察しがつく。
いやまあ、馬鹿だなと言ったのはわざわざ眠れる獅子を起こさなくてもと思っただけだが……。Sランクの伝説の聖女だぞ? 文字通り触らぬ神に祟りなしというやつだろうに。
「ここまで力の差があったとは……」
剣を収めるリアミル。完全に戦意がないように見える。が、ここで終わるはずもないな。観客が納得しない。
「安心してください。不意打ちをするつもりはありません」
「そうか」
元々どこかおかしかった。全体的にぎこちない動きで、心ここに在らず。言うなればそう、力のこもってない攻撃だった。
おおよそ理由もわかっているけどな……。
「ひっ!?」
観客席にいた老人たちを睨むと腰を抜かした様子が見えた。カゲロウを纏ってたら俺でもそれなりの圧になるんだな……。
「ここからが本番だよな?」
「ええ。私は全力を持って、あなたを排除するために動きましょう」
ゆらり、と身体が消えたように見えた。
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