緑桜隊
「貴方が噂のドラゴンテイマーでしたか」
コロシアムに降り立つとすぐ、兜を取った緑桜隊隊長、リアミルが挨拶をしてきた。前評判通りいい人のようだ。そして何よりなんだ……エルフかと思うほど整った顔立ちをしていた。
「リントくん、男の子だからね?」
「まじか……」
「ご主人は見境なしだな」
「いやいやそういう意図はない」
ただこう、美少年と言えばそうだし、美少女と言われればそれで十分納得する、本当に整った顔立ちをしていた。
「隊長に色目を使うな」
「気持ちの悪い奴め」
目つきの悪い隊員が2人、立ちはだかるように前に立った。
見たところ2人とも可愛い美少女なんだが、リアミルの前例があるので疑わしい。まぁいいか。
「さて、準備はいいかな?」
いやらしい笑みを携えたギルド幹部の老人たちが声をかけてきた。ああ、勝てるわけがないと思っている顔だ。
「まずは感謝しよう。王都においてこれだけの興行を起こせたのはひとえに、新進気鋭の君たちパーティーのおかげと言えよう」
わざとらしくこちらに笑いかけながら話を続ける。
「だがまぁ、いかんせん勢いというのは身を滅ぼす諸刃の剣だ。我々は優秀な冒険者を失いたくないのでな。少し慎重に、こういった形をとらせてもらうことにした」
ものは言いようだな……。だが観客にとっては十分プラスになる演説だったらしい。会場のボルテージは最高潮だ。
「さて、竜が暴れるには少々狭くて申し訳ないが、事前情報によれば戦闘に竜は使っておらんと聞く。それはどうだ?」
「ん? ああ、こいつは帰らせるよ。参加しない」
「ふむ……そう言うならそうしよう。緑桜もその分、騎馬戦がメインだが歩兵戦を強いられるしな」
竜と馬で比較しているのが馬鹿らしいんだがまあいい。
「さて、そろそろ始めよう。条件を確認する! 冒険者リント率いるパーティー、そのメンバーすべてのAランクへの昇級試験となる!」
観客が一言ずつ歓声をあげる。
「2名ほどすでに、Sランクとされる冒険者もおるが、その適性を見極める意味合いも兼ねておる! 故に両者、全力でやるよう!」
メアリムは胸を借りるつもりですなどと言っている。まあビレナが負けるとは思わないが、バロンより強いのがそんなことを言っているのは違和感だな……。
お前らがもうちょっとちゃんとした自己評価をしていたらこんなことにならなかったのにと思ってしまう。と、横にいるバロンに愚痴をこぼした。
「そうだな。リント殿がその認識を改めるきっかけになるというなら、今日のこれも無駄ではなかろう」
あれ? なんか思ってたの違う反応がきた。
「ではこれより、Aランク昇給試験を開始する! 両者準備は」
まあまあ色々考えても仕方ない。目の前のことに集中しよう。
みんなと目を合わせ、頷き合う。
「いつでも」
「はい」
緑桜隊とお互いに距離を取り答える。
その間にカゲロウを呼び出し、憑依させておいた。ギルド幹部や観客は気づかなかったようだが、メアリム以下、緑桜隊のメンバーの表情が変わったのが見えた。
「では、はじめ!」
先手はビレナがとった。
「にゃはは! 私の相手は誰かにゃ!?」
無防備に飛び出し、相手を挑発するように周囲を移動する。観客にとって見れば突然消えて時折現れる瞬間移動のように見えているだろう。
「私も遊んでもらおうかしら」
「なっ!?」
口ぶりのおっとり感と裏腹に好戦的なティエラが次に仕掛ける。2人ほど隊員を巻き込みながら、コロシアムに巨大な樹木を発生させていた。
向こうは都合三人がこの対応に追われる形となる。
「くそっ!」
残っているのは隊長リアミルと先ほど立ち塞がった目つきの悪い二人組。
「私は何かあったときのために控えておりますので」
「ふむ……私もあまりで良い」
リリィとベルは動かないようだ。となると、バロンと俺は残った3人から弱いのを狙えばいいということになるな。
「リント殿はリアメルに向かうと見た。ベル! 悪いが力を貸してくれ」
「ふむ……お主と戦うのもまた一興か。良かろう」
「え?」
あれ? 俺の相手一番強いのになるのか!?
「リーダー同士、直接対決といきましょう。いやしかし……まるで勝てる気がしませんね……」
「そんなことはないだろ?」
いくら何でも謙遜が過ぎるのでは?
「それは……精霊憑依というものですよね」
「そうだ」
「凄いです。初めて見ましたよ。そんな高位の精霊をそこまで見事に纏える方は」
残された2人。特段仕掛けることもなく会話が始まる。
実質Sランク超えの男? にそう言われて、悪い気はしない。俺とカゲロウも成長出来ているらしい。
「妹たちに見せたいものです」
「妹がいるのか」
「ええ、たくさん」
「たくさんか……」
たくさんの家族を養うために? だとすると本当になんというか、美談の塊、という印象だな。聞いた話じゃ王都中のトラブル解決に奔走しているようだったし。
「さて……」
ちらりと周囲に目を配ったリアミルに合わせ、俺も周りを確認する。
ビレナは加減をしているようで終わることはなさそうだ。ティエラも2人を相手にしているし、ベルとバロンもしばらくは様子見だ。まだ時間的にはゆとりがあるか。
「ドラゴンといい精霊といい……さらにこれだけのパーティーのリーダー……貴方がなぜわたしたちのようなものと戦う必要があるのかわかりません」
「奇遇だな。俺もそうなんだ」
完全にあの老人たちの趣味につきあわされた形だ。
「全員がSランクとしての活躍をできる理想的なパーティー。我々も見習いたい」
「いや、Sランクってことに関してはそちらも」
「またまた……我らは国からでられぬ若輩の身。折角の機会です。存分に付き合っていただきたい」
自己評価が低いというのはこういうことか……。
「仕方ない、か」
「ええ、仕方ないのです」
ニッコリと笑ったリアミルの姿がブレる。次の瞬間にはまるで3人になったかのように、左右と正面から同時に斬撃が飛び交った。
「おっと!?」
カゲロウの力を借りて2つを躱し、一つはキュルケが弾き返そうとした。
だが
「なるほど」
キュルケの攻撃はすり抜けて何も起こらなかった。
影分身は幻像ということか……。
本体の見極めが大事か。
「どんどん行きますよ!」
「ああ」
観客から見れば分身は盛り上がる。
リアミルの戦い方に観客の熱量がまたひとつ上がったのを感じた。
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