昇格試験
「じゃ、いってらっしゃい」
「はーい!」
例の際どいメイド服のミラさんに見送られて出発になった。
あれからギルド幹部たちはあらゆる言い訳を並べ続け、結局5日後にコロシアムで昇格試験ということになった。1対1ではなくチームによるパーティー戦。
メンバーは俺、ビレナ、リリィ、バロン、ベル、ティエラの6人。相手もAランクを基準に準備するとのことだった。
「誰がきたらやばい?」
「そうですね……黒槍、紫電、黄竜、、この辺りは私たちでも苦戦はするかもしれませんね」
黒槍だけはわかる。尋常でないプレッシャーを放つ王都騎士団の一人。
ビハイドとの1件で対峙した相手だったな。
「このあたりの二つ名持ちは皆Sランク超級ですからね。こんなの出してきたらさすがにヴィレントあたりが抗議しますが」
「瞬光と聖女がいる以上、二つ名では負けてないがな」
バロンが言う。確かにまあ、そうか。聖女が二つ名かどうかは置いておくとして。
「リントくんはどんな二つ名になるだろうねー?」
「私にもつくのか?」
気が早い話が始まっていた。
二つ名はBランクを越えた有名冒険者たちが自然と呼ばれはじめて成り立つ。SランクやAランクでも二つ名がないものもいるし、スポンサーがアピールのために喧伝してBランクでも二つ名で通っているものもいる。
「ま、流石に二つ名持ちを引っ張り出しては来ないよね?」
「いくらあの老人たちでもそこまでのことはしないと思いますが……」
ないと言い切れない辺りがおかしな話ではあった。Aランクの冒険者を相手に勝てれば、というのであれば理解できるが、Sランクを連れてきて平然としていたんじゃまあ、なぁ。
「とにかく行ってみないと始まらないわね」
「そうだな」
6人がそれぞれギルに飛び乗り、王都を目指した。
◇
「そうきましたか……」
コロシアムを見下ろすリリィの顔が歪んだ。
「どういうことだ?」
「コロシアムにいる6人、見えますか?」
「ああ、なんとか」
緑色が目立つ騎士と、それぞれ獲物の違う5人の男女。すべて重装備で、見覚えのある紋章がこしらえられていた。
「王都騎士団……」
「緑桜隊の六騎聖ですね」
なんか強そうだな。
「見るからにAランクとやらの基準は越えておらんか?」
「そうねえ」
ベルとティエラが言うってことはそうなんだろうなあ。
「私が六人いると思え」
「流石にそれは……」
バロンの自己評価が低すぎないか? と思ったがリリィがそれを肯定した。
「バロンの言う通りだと思っていいでしょう」
「まじかよ……」
バロンって神国の滅龍騎士団の団長としてSランク相当の評価を受けてたよな……?
「簡単に説明すると……王都騎士団は色を冠した隊がいくつかありますが、彼らはその中で最も無名で、最も自己評価の低い隊になります」
「無名……?」
「他の隊は黒槍をはじめ国内外に名を轟かせる大きな戦果を上げていますが、緑桜にだけそれがありません」
「弱いってことか……?」
「いえ……目立たないだけで、実際には黒と紫に次ぐ実力です」
「なるほど……」
率先して大きな事件に手を出さないだけで、堅実かつこうして王都周辺では活躍を見せているらしい。むしろ他の隊がやりたがらない仕事を率先して行い、王都の民からの信頼があつい。結果、先陣をきる6人についた名が六騎聖。隊長リアミルを中心に特に優秀な隊員6名がいつの間にかそう呼ばれていたらしい。聖がついているのはその行いの高潔さゆえという。
「良いやつなのか」
「そうですね……それをあの老人たちが悪用したというのがそうでしょう」
あー……。
「自己評価が低いせいで、彼らの実力はAランクの入り口程度と王都の民に広まっています」
「実際には?」
「全員もれなくSランク超級。隊長はバロンでも苦戦します」
「そんなにか……」
厄介だな。実力はSランクを越えているのに、それに文句を言える状況ではない。そして評判のいい相手に俺たちがボコボコにするのは心象が悪い。かといって勝てなければAランクへの昇進は認めない、か。
「ま、行こっか」
「ふふ。強いというのなら、ある程度やってしまっていいのかしら」
「私は少しやり方を考えるぞ……」
ビレナ、ティエラ、ベルがそれぞれ、ギルから降り立つ。ベル以外心配だなぁ……。
「まあ、最悪の場合は私の力も役に立ちますから」
「聖女殿の活躍に期待するとしよう。正直私は身を守るので手一杯だろうからな」
リリィとバロンが続く。
いや当たり前のように飛び降りてるけど結構な高度だよな……?
「じゃ、行こうか」
「グルルルゥゥゥ」
ギルに呼びかけて首元を撫でると気持ちよさそうに鳴いてコロシアムの中央めがけて降下し始めた。
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