帰還

 結論から言えば特段大きな発見はなくダンジョンの探索は終わった。

 新種と呼ぶにはあまりに生物として破綻したものも多く、連れて帰れそうなものは限られていたせいだ。それでもあの金のスライム以外にいくらかテイムして収納石に入れてある。流石に難癖もつけにくいだろう。


「んー……あんまり面白くなかったねぇ」


 ビレナは自由気ままにダンジョン内を駆け巡り、普通の冒険者が見れば一生に一度と言っていいくらいの大物を移動のついでのように倒し、これまた一生に一度と言える財宝をなんの感慨もなく収納袋に仕舞い込んでいた。

 ちなみになぜかこの取り分は俺のために貯めるとか言い出していた。そんなに貯めて何するんだ……下級貴族が数年暮らせるくらいの金額だろ……? それ。


「ご主人様はこのあと貴族の仲間入りですしね」

「ふふ。そしたらこのくらいの蓄え、微々たるものでもないよりはマシね」

「ふむ……そんなものか」


 バロンもうなずいていて味方がいない。


「おろおろするでない。おそらくご主人はあのビハイドが治めておった辺境伯領の一部を受け取る」

「そうなのか……」


 ベルが説明を加える。


「当然あの地において統治を任せられる人間などそうそうおらん。強いて言えばカルメル家の小娘とその父親くらいだろう。だがあれも、もうご主人に心酔しておろうに」

「えっ?」


 初耳だぞ? それ。


「とにかくそうなれば実質あの地を治める必要がでる。最初の爵位は大したことないかも知れぬが、いつまでも支配者のいない土地を野放しにはできん。順を追って近いうちにご主人は辺境伯と同等の地位を持つぞ」

「嘘だろ……」


 飛び級過ぎない?


「そもそも、ご主人さまは王との盟約もあります。これだけで、候爵以下大多数の貴族は本来、ご主人さまに政治的にも太刀打ちできないんですよ」


 リリィがそう説明する。


「そもそもリント殿は神国の支配者だ。辺境伯では収まらん」

「ええ……」

「そうですね……他国の王族と両立するようなものなので公爵が妥当です。これは本来王と同等の力を持つものを自国に踏み留めるためにあるようなものですから」


 いつの間にかえらいことになっていた……。


「ま、どのみちリントくんは冒険者をやりたいんでしょ?」

「そうだな……」


 貴族なんてガラじゃない。今更面倒なことに巻き込まれたくはなかった。


「まあ、そのあたりのことはバロンが一通りやりますから」

「は? いや待て私も神国のことだけで」

「ふふ……少しくらい手伝えるかしら?」

「えっと……」


 ややこしい話はもともと王族のティエラを含めたみんなに頼むことにしよう。


「と、いうわけで、かえろー!」

「ギルはいい子にしてるでしょうか?」

「邪龍……ハイエルフを相手にするのに使うのも、ありかもしれないわね」

「やっぱり森を焼けば早いと思うんだけどなー」


 みながみな、思い思いのことを言いながら帰路についた。

 もちろんビレナの意見は却下した。鬼かお前は。角は生えてるけど!

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