ダンジョンの中
「こんなことになってたのか……」
巨大な穴に降りていくと、壁面にいくつか洞窟のように中に入れる空間を見つける。リリィとベルとバロンと共に中に入ると、どういう原理か外側からは考えられない空間が広がっていた。
「ダンジョンは異次元。通常はゆっくりと周囲の魔力を糧に育っていき、吸い上げた魔力に応じて広さや中に現れる魔物、そして産出物が変わります」
「まあ、ここに関しては十中八九あやつの魔力が糧だからな。なかなか楽しいダンジョンになっておるであろう」
ベルが心なしか楽しそうだ。口ぶりからすると邪龍というのも知り合いのように感じるな。
「リント殿……本当に変わったな」
突然バロンがそんなことを呟く。
「変わった……?」
「私と出会った頃であればこんな場所なんとしても一刻も早く離れたがっただろうに」
そうだっただろうか……?
いや言われてみればそうだ。当たり前のようにダンジョン内に入ったが、普通未知のダンジョン相手ならもっと慎重に進むはずだ。どんな罠があるかわからないわけだし。
「まぁ、私たちがいますしね」
「そうだな。罠なんぞあってもなくても変わらん。発動前につぶしておる」
「え……? もうなんかあったの?」
知らないうちに守られていたらしい。
「きゅきゅっ!」
「キュクー!」
キュルケとカゲロウも何か訴えかけてくる。
「ご主人様はもともとキュルケちゃんがいたから守る必要はないですしね」
「ふむ。それをやれる者が増えただけだ」
「それは……いいのか……?」
要するに今までもキュルケ頼みで知らず知らず守られていたということになる。
「それがテイマーというものだろう。私に武器と鎧なしで戦わせるようなものだ」
「そうですよ。私だって魔力無しでは何も出来ませんしね」
そういうものなのだろうか……?
まあ、いいか。最近本当に周りのレベルが規格外すぎて色々感覚も崩れているし、今さら悩んでもしかたなかった。
「なんならここにおるものらは全員がご主人の使い魔であろうに」
「まあ、そうなんだけど」
なんとなくこれでいいのか感は拭い切れないが、これ以上考えるのはやめた。
「さて、お出ましだぞ」
「なんだあれ……?」
バロンが構えた先にいたのは奇妙な生き物だった。二足歩行で小型の生き物だが、手はなく頭のようなところはほとんど単眼しかない目が占めており、申し訳程度に触角のようなものが上に二本飛び出ていた。一言で言うとあれだ。気持ち悪い。
「間違い無く新種だが、どうする?」
バロンは油断なく斧を構えてくれている。
「あれ、連れて帰るのか……?」
リリィを見ると生理的に無理という顔をしていた。
「おそらくだが」
ベルが口を挟む。
「急激に成長したダンジョン。最初に出てくる魔物などほとんどネズミのようなやつらだが、こいつはここのダンジョンの溢れ出る魔力についていけずにこうなったのであろうな」
それだけ言うと静かにその魔物の足元に手をかざす。どこからともなく黒い空間が魔物を包み込み、そのまま溶けるように消えていなくなった。
「そんなこともあるのか……」
「あやつは適合しなかった奇形。もはや抵抗する力もなかったから良いが、ここから先はおそらく、見た目も中身も狂った魔物がゴロゴロ出てくるぞ」
ベルがまさにそういったところだった。
「あ! リントくーん!」
「お、ビレナか」
ダンジョンの向こうから走ってくるビレナの声が届いた。
ただ、余計なものも連れてきて
「それ! 捕まえて!」
「は!?」
咄嗟に手を伸ばすが何も掴めず風だけが擦り抜けた。
そりゃそうだろう。ビレナが追い付かずに追いかけないといけない何かなんて、捕まえられるはずもなかった。
「なっ!? これは!?」
「スライムだよ!」
「こんなスライムがいてたまるか!」
どうやらバロンのほうに行ったらしい。そちらを振り向こうとするとなぜかバロンが叫んで止める。
「ダメだ! こっちを見るなリント殿!?」
そんなこと言われたら気になるし見ちゃうよね。
「絶対聞こえていただろう!? なんで見た!」
予想通りというかなんと言うか、金に光るスライムに襲われ、あられもない姿になったバロンがそこにいた。
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