邪龍
「なるほど……」
辿り着いたのは山岳地帯の、そこの見えない大きな大きな穴だった。
「螺旋階段になっているんですね。おそらく各地に入り口があるんでしょうけど」
「ねえ! ちょっと遊んできていい!?」
ビレナのテンションは爆上がりだった。止める間もなくギルから身を投げ出し、巨大な穴に自ら飛び込んでいく。
「流石に飛べないのにまずくないか……?」
「ふふ……ここは少し私の力は届きにくいけれど、ビレナについて行きたくなるわね」
「え……?」
次に飛び込んで行ったのはティアラ。こちらも飛べなかったはずなんだけどな……。
ちなみにビレナはなぜか足場のないはずの空間で跳躍して巨大な穴の壁面にたどり着いていた。次の瞬間には消えたのでどこかに入ったのだろう。
そうこうしているうちに追いかけていったティエラも淡い緑の光を放ちふわりと空中に着地した。
一瞬キョロキョロと周りを見渡したかと思ったら、そのままスッと姿が見えなくなった。
「規格外過ぎない……?」
「お前が言うな」
常識枠のバロンはしっかりギルの上に待機していた。良かった。これで飛び込まれたらもう飛べるやつだけがギルに乗るよくわからないことになってた。
「きゅきゅ!?」
「おい! お前まで真似するな!」
バロンに安心していたら今度はキュルケが飛び出していく。慌てて追いかけるが飛べる相手なのでそんなに心配はしていなかった。
だがーー。
「は?」
「ご主人様!?」
ダンジョンだと思っていた巨大な穴から突如、光が溢れ俺たちに一直線に飛び込んできた。
「きゅー!」
「お前これに気づいてたのか!?」
慌ててカゲロウを喚び出して身に纏う。キュルケはいつもの可愛らしい剣を振り下ろし、光の奔流とぶつかり合った。
流石にサイズ感が違いすぎる。キュルケの後ろに回ってその小さい身体を支えてやった。
「きゅきゅー!」
「すごいな……」
光はほとんど剣に吸い込まれるように消えていき、そのままキュルケのカウンターに乗って穴の中に消えていった。
「なんだあれ……この山ってこんな噴火するのか!?」
「あれは噴火ではないです……」
「ふむ……本調子ではないとは言え、あやつのあれを弾き返したのは凄まじいな」
「きゅきゅー!」
ベルに褒められて誇らしげなキュルケを撫でてやる。
その前に一つ気になったことがある。
「あいつ……?」
「ご主人様、絵本で見たことありませんか? 邪龍の伝説」
「あるけど……え?」
邪龍の伝説といえば王国民なら誰でも知っている有名な話だ。なにせ国滅ぼしの竜であり、こいつを倒したことで生まれたのがいまの王国だと言われているくらいだ。多少脚色はあるだろうが、国の歴史の根幹であり、有名な話だった。
「あれ、確かランクにしてSにプラスがいくつつくんだっていう化け物の話だったけど、流石に脚色だよな?」
竜なんて1匹で十分小国は滅ぼせるし、群れになればさらにそうだろう。
千年以上も前なのだから防衛力も今とは異なるはずだ。
「あやつの強さをいまのランクで測るのは難しいが……AランクとSランクにある開きを一と考えるなら、ただのSランクからおよそ七、八は変わるだろうな」
「え……?」
「初代国王。竜殺しの英雄はスキルが竜の封印に特化していましたからね」
「お主、知っておるように喋るな」
「神の使いの力は伊達ではないようで、ある程度世界の出来事は遡れるんですよ」
色々とんでも情報が出過ぎてどこから突っ込めばいいのかもはやわからない。
「さて、万が一起きておれば、この場は私に任せて逃げるべきだが」
「あのくらいのことは封印の中でも起こりうるでしょう……」
要するにいまのはその邪龍による咆哮であり、これは神国からは定期的に観測された現象だったらしい。王国のギルド調査ではそのあたりの真実に全く気づかず、呑気に新ダンジョンなどといってはしゃいでいたようだ。
「もはやこの事実だけでもう、あやつらの首などあっさり飛ぶだろうな」
ギルドにいた偉そうなおっさんたちが頭に浮かぶ。
「悪戯にあれを刺激するなよ? さすがに止められても一度だ。そのあとは私も数千年は動けんぞ」
「そんなに……」
ベルだって大陸の三分の一くらいなら掌握できるだけの恐るべき戦力を持っている。
というのにそのベルをもってしてこれだ。悪魔は寿命もなければ人間界での出来事ならあちらの世界に戻って回復することはできるらしいが、数千年の眠りはもはや生まれ変わりと言われる事実上の死を意味している。
「引き返すか……?」
「まあ、そんなにやわな結界ではない。今日一日くらいでどうこうはならん」
「私も結界の補助を強化しておきますので」
二人がそういうので少し安心する。
いずれにしてもビレナはもうダンジョンの中だしな……。
二人を追いかけるために俺たちもダンジョンに向かった。
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