出発
おろおろし始めた役員たちに助け舟を出したのはヴィレントだった。ただその表情は必死に笑いを堪えていたものだったが。
「条件を確認しましょう。依頼が依頼ですので、準備もありますしな」
「ふ……ふむ。そうだな」
狼狽しながらも偉そうにうなずくというなんとも間抜けな姿にギルド中の冒険者たちが笑いをこらえているのを感じた。
まとまった内容はこんな感じだ。
新ダンジョンは王都から馬車で三日ほど進み、さらに山岳地帯を進んだ先にあるという。案内を出すと言われたが時間がもったいないので地図だけもらうことにした。
期限は特に定めず、こちらがギブアップするまで挑戦していいらしい。太っ腹とも言えるし、そもそもそんなレベルの無茶な課題を出すなという気持ちもまあ、かなりある。
「新種なのかなんなのかはわからないけど、まあ適当にテイムすれば良いんだよな……?」
「一定以上の……って、竜なら問題なさそうよね?」
新ダンジョンの仮名称は竜の巣。
山岳地帯にくりぬかれたような巨大な穴を調査隊が発見し、中に降りていける構造らしい。
三層付近まで調査した結果、竜が使っていた痕跡や見たことのない魔物を数種類確認している、というのが今の状況らしかった。
「ふん……竜なら文句など出るはずもなかろう」
「そもそもここ何十年もドラゴンテイマーすらいなかったのだ。偶然捕まえたようではあるが簡単に行くと思わんことだ」
「なるほど……」
まあ、新ダンジョンというくらいだし竜の強さもギルとはまた変わるだろう。
「で、私たちの条件はどうなるのかしら?」
ティアラたちはそれぞれAランクの現役冒険者を相手することになる。
「どうせ何日も帰って来れんのだ。それまでには用意しておく」
「そう」
ティアラ、ベル、バロン、俺にそれぞれAランクをあてるらしい。そのほか二名、Aランクに合わせられる人間は用意するということだった。
こちらもビレナとリリィも加わったパーティー戦だ。
Sランクが入ると全然話が変わるんじゃないかと思ったが向こうの認識はこうらしい。
「その小娘はそもそもSランクとしての品位も力も示せておらん。今回の件でAランク相手に苦戦するようであれば、考え直さねばならんな」
「聖女殿はヒーラー、実際の戦力としてそう大きくカウントはできないでしょう」
というわけで、ビレナが暴れだす前にとりあえず竜の巣に向かうことにする。
ギルに呼びかけて迎えに来てもらうことにする。バロンと違ってでかいから召喚をすると俺の魔力では持たないと言われたが、かわりに離れていてもある程度の意思の疎通が図れるようになった。
原理はバロンに色々教えてもらったがよくわからないので忘れた。とにかくギルは遠くに居ても呼べる。
「では、一応調査期間の目安を聞いておきたいのでな、到着し簡易の調査を終えたらこれを飛ばすと良い」
ヴィレントが鳥籠を出してくる。
「かわいー!」
「カワイッ!?」
「喋った!?」
中にいたのは中型の鳥だ。人間の言葉を真似して喋れるらしい。
「こやつに伝言で日付を伝えよ」
「ツタエヨ!」
「これもテイムされてるのか?」
「いや……これは調教だな。竜車や馬車と同じ、スキルなしの教育だ」
なるほど。
俺はスキル頼みなところがあるのでその辺りの知識は全くない。いつか学んでみるのも面白いかもしれない。
「あ! ギルちゃんきたよ!」
もうギルド幹部たちとは顔も合わせたくないようで早々に外に出ていたビレナが俺たちを呼んだ。
「またあれをここに呼んだのか……」
「諦めよ。そもそもご主人がいなければ私の方が問題だろうに」
「それはそうだが……」
ヴィレントがベルに窘められていた。
「なんだこの音は!?」
「なにを呼んだんだっ?」
いよいよ建物の中にいても気配が感じ取れるようになり、ギルドがざわめきだす。怯えるように役員の一人が聞いてきた。
「竜だよ」
「竜?!」
「ドラゴンテイマーって言ってあっただろ?」
ーードシン
外で大きな音が鳴り響き、振動がギルド全体を揺らした。鍛えていない役員たちだけよろけてみっともない姿を晒している。
「ドラゴンテイマーなどと嘯いて、その実ただのリザードテイマーという話では……!?」
「でなければ何故そのような力を持っていて今までDランクだったのだ!?」
「こやつの出身ギルドはどこだ!」
一人二人、目を逸らす役員がいる。わかりやすいな……。ビハイドが好き勝手できたのはこいつらとの蜜月のおかげだ。
「さて、それじゃ、いこっか!」
ビレナがトン、と軽やかにギルの上に飛び乗る。同時に収納袋から鞍を取り出し、ギルも自ら鞍を手前に持ってきて俺をみる。
「今つけてやるよ」
「グラララルル」
機嫌よさそうに鳴くギルを撫でながら鎖を繋いでいく。
「これを見てもテストが必要だなんて。人間たちのギルドってどれだけの戦力が揃ってるのかしら? 連れてくるAランクが楽しみね」
「ほう。そうか。ギルドというものはよく分かってなかったが、それなら加減なしでできるな」
ティアラとバロンがそれぞれいう。バロンの方は本気で思っている節があり、ギルド職員が目を白黒させていた。
ちなみにその場にいたAランクの冒険者は絶対に目を合わせないよう、頑なに顔をあげなかった。
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