王城に乗り込んで……
「すまなかったな……」
国王は項垂れ、リムドが顔を青ざめさせていた。
「下がらせよ」
「はっ」
そのままリムドは真っ白な顔をしたまま消えていった。
我慢しきれなかったビレナが王城真上までギルを乗り付けたかと思ったら施設を一個派手にぶっ壊しながら降りていったところからスタートしている。
慌ててすべての予定をキャンセルした国王との緊急面談という形になり、ビハイドの件以降を報告したところだった。これだけのことをしでかしてなお国王に頭を下げさせたという事実がリムドの最後の微かな希望すら打ち砕いたようだった。
「さて、改めて、神国で起こったことを報告してもらいたい」
「ああ」
ここからは少し遡って神国の話だ。これは個別依頼でもあるのでギルドの実績にもなる。まあ、報告するのはリリィだけど。
「ご存知の通りキラエムによるクーデターはおおよそ成功しておりました」
「ふむ……」
「残すは行方不明の私、聖女を手に入れれば名実ともに神国を手中にしたでしょう」
リリィが全部説明してくれている。これに関してはキラエムがしっかり正気を保っていた時の話だけどな……。
「だが、そうはならなかったようだの」
「黒魔術。先程ビハイド元辺境伯によるお話をさせていただきましたが、キラエムもまた、この力に飲み込まれていました」
「闇魔法……か」
キラエムとビハイドを見ると、ビハイドはより早い段階で闇魔法に呑まれていた可能性がある。クエルの話を信じるならば、ということになるが。
これについてはしっかり調査をしてくれると確約はとれている。クエルも報われることだろう。あれ? 死んだみたいな言い方になったな。多分生きてるはずだ、大丈夫。
「キラエムもビハイドも兵士は洗脳状態、民もそれぞれ搾取する対象としか感じていなかった様子で、被害の方向性は似たようなものです」
「そうか……」
こころなしか話が進むにつれてしわが増えていく国王。だが全部聞き届ける必要があるからな。
「しかし……色々話さねばならぬことが多いな……」
「トラリム宰相にも来ていただいたほうがよろしいのでは?」
「もちろんそうだが……なにせ急な来客だったものでな」
意趣返しと言わんばかりにこちらを睨む国王だが、誰もそれを見て動じることはなく、すぐにため息に変わった。
「まったく……とんでもない相手と盟約を結んだものだ……これで神国はお主らパーティーの支配地域となったな」
「むしろ盟約があってよかったのでは? 我々が支配権を握っている限り、攻め込まれる心配もありません」
「それはそうだな……もはやあの地を守るビハイドもいないとなれば、その気になられれば我が国は容易に滅ぶな……」
頭を抱える国王。こないだの槍使いの騎士みたいなのが複数いるというなら全面対決なら守りきれるだろうが、広大な領地を守りながら全ての戦力をこちらに割くわけにもいかないわけだからまぁ、そうだな。
ベルだって力をフルに発揮すれば大陸の半分を支配下に置きかねないスペックだし、ビレナも止まる気はしない。ティエラに関しては仮にも女王なので実働できる部隊もあるし、バロンはリリィと一緒なら神国の全戦力を注ぎ込める。改めて考えると本当におかしな戦力だな……。
「で、ご提案がございます」
「言わずともわかる……というよりも、この状況で2人も要所を締めていた貴族がいなくなっているんだ。願ったり叶ったりというやつだろうな」
なんの話だろう?
「冒険者リントには爵位を授け、旧ビハイド領の一部を与えよう」
「え?」
貴族になるの? 俺。
「授与式はいつにしますか?」
「それこそトラリムに決めさせる。頼むからしばらくは王都でおとなしくしていてくれ……」
「ふふ。わかりました」
リリィと国王の話が終わる。
爵位ってどういうことだ。なんでそうなったんだ?
「辺境伯になるの?」
ビレナがしれっと聞く。いやいや、辺境伯ってすげー偉いよな? 無理だろそれは。
「本来ならそうしたいが、流石に反発があるだろう」
本来ならそうしたいんだ……。
「この辺りも一度トラリムに預ける」
「わかりました」
流石に急に乗り込んで国王をこれ以上拘束するわけにもいかないようで、国王がそそくさと解散に向け動き出す。その様子を見て最後にビレナが一言、鋭く言い放った。
「貸し、一つ」
有無も言わせぬビレナの圧を受け、国王のしわと白髪が増えたように見えたのは、錯覚ではなかったかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます