決着

「この件はあくまで国内での出来事、神国の皆様方においてはその点、重々承知していただきたい」

「神国を代表する人物が3人もいてその発言、許されるとでもお思いですか?」

「いかに聖女殿とはいえ、この件は外交干渉に当たりますなぁ」


 あくまで強気だな。まあ理由も何となく分かる。


「今まさに荒れた神国において、我が国の応援は必須なのではないですか?」


 これだ。だがそれも、情報伝達が遅かったな。


「ですので聖女殿と騎士団長殿はどうかお引き取りください。ここから先は我々の国の話でございます」

「王国の支援は必要ない」

「は?」


 俺の言葉に耳を疑うといった様子のリムド。


「この場において最も場違いなあなたが言いますか。良いですか。ここでの発言は公のものと知りなさい。そもそも貴方ごときに発言権はないのです」


 言質をとった。この場で話したことは公のもの。自分で自分の首をしめたな、リムド。


「俺はいま神国の実質支配者の地位にいる、らしいぞ?」

「ご主人さま、そこはちゃんと言い切ってください」


 だって実感がないからなぁ……。


「ふっ。何を言い出すかと思えば……」

「本当のことだぞ。書類ももうある。ちょうどこちらに来るとき渡すつもりで持っていてよかったな」

「は……?」


 バロンが収納袋から取り出した一枚の紙には、俺の名前が神国の実質的支配者、教皇の地位に取って代わることが明記されていた。


「こんなものを偽装して……どのような罪に問われるのかわかっているのですか?」

「ここに私達がいるというのに、信じられませんか?」

「信じるも何も……現在の実質的な支配者はキラエムでしょう? そのくらいの情報は入っているのです。舐めないでいただきたい」


 なるほど。一つ前の話をしているのか、リムドは。


「キラエムによるクーデターは確かに成功しました」

「そうでしょうとも。わかったならお二人はお下がりください」

「ですので、そのキラエムに代わって支配者の地位を引き受けてくださったのがご主人さまです」

「馬鹿なことを! 信仰を第一とする神国民がこのような冒険者ごときを認めるものですか!」


 言葉では伝わらないリムドを見て、「はぁ」とだけ息をつくとリリィが天使化した。


「は……?」


 これにはリムドだけでなく、後ろにいた騎士団も例外なく口を開けて驚いていた。


「私がいるのですよ? 神の使いの名において我が主リントを神国の中心に据える。誰も反対などしませんでした」

「そんな……馬鹿な……」

「わかりましたか? 貴方が今話しているのは、神国の新たな代表者。そして事実上、あるいは武力の上で国をまとめるバロン、さらに今言ったように信仰を第一とする神国において、神の使いたる私の存在はそう軽いものでは有りません」

「それは……」


 何も言えなくなるリムド。


「だが! これは王国内で起こったこと! 神国の代表というのなら、なおのこと口出しは控えていただきたい!」

「おい。いつまで馬鹿なことをいっておる。ビハイドとやらが闇魔法を悪用した。そこには下級とは言え悪魔もおったのだ。貴様らの失態は神国にまで影響の及ぶ危険な行為、それをわかっておるのか?」


 ベルの言葉は王国民にとっては衝撃的なものだっただろう。悪魔の脅威は誰もが知るところだ。過去下級の悪魔であっても刃が立たず、大きく支配地域を伸ばし魔王となったものも複数確認されている。

 流石に後ろに控えていたヴィエルグも今度は何も言えなくなっていた。

 だがリムドだけはなにかが吹っ切れたようにどす黒い本音を吐き出し始める。


「貴族が……」

「ん?」

「貴族が一人、死んでいるのだぞ!」


 ビハイドのことか。


「貴族というのはな! 生まれながらにしてその命の価値がお前らなどとは異なるのだ! それを、まして国の領土をその身で守る辺境伯が1人亡くなったのだぞ!」


 確かにこの中に貴族はいないが、Sランク冒険者に聖女、騎士団長、お飾りとは言え国の代表。そう考えるとティエラも女王だな。あれ? これは貴族じゃないのか? まぁリムドは知らないから関係ないか。


「貴様の命などではとてもとても償いきれぬが、それでも、責任は取ってもらうぞ」

「責任?」

「そうだ! でなければ王国のメンツに傷がつく! どうせそんな書状は偽物だろう!」

「どんな書状なら信じるっていうんだよ……」


 バロンがわざわざ用意してきたんだぞ?


「仮にも王国民であったお前なら我が国の何かを示せ! 示せるものならな!」

「そうか……」


 もういいだろう。


「これでいいか?」

「ふんっ。何を見せようと……何……なんだ……これは……国王陛下の、間違いない……なぜ……」


 膝をつき崩れ落ちるリムド。拠り所にしていた王国における地位すら揺らいだのだ。しかたなかろう。


「なぜ……どうして……」

「神国に関することは国王の名において俺の行動が保証されてるわけだ」

「そんな……ことが……」


 もしリムドがこちらを舐めてかかることなく、しっかりとした対応をしていれば結果も変わっていたんだろう。


「ここでの発言は公のものと知りなさい、でしたか? 国王直々に命を受けていた相手をここまでこけにしたのです。相応の報いは必要でしょうね」

「貴族の命であれば償いきれるのか? この場合」

「ぐ……」


 リリィとバロンが好き放題言っている。

 もう戦意もないし、ちょうど騎士団もいるわけだ。領民は連れて帰ってもらって、リムドの身柄だけもらおうか。


「で、もう殴っていいの?」

「やめてやれ」


 ビレナは相変わらずだった。

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