41 最大戦力

 ビレナと別れて牢のある場所まで向かった、そのはずだったが。


「あれ? リントくん?」

「ん? ビレナがなんでこっちにいるんだ」

「んー、なんとなく術式の匂いをたどってきたらここだったの」


 術式って匂いがするのか……。新事実過ぎる……。


「まあ、こういうのも予想はしてたっていうのも、あるかも」


 ビレナの視線の先には牢に繋がれた生気のない人々がいた。

 要するにキラエムはすでに、逃げられない人質を作っていたということだ。


「ひどいな……」


 術式は人質自身に埋め込まれており、ビレナの感覚の正しさが証明されている。今回に限っては外れてほしかった。


「どうしよっかね。リントくん」


 壊す専門のビレナにこの状況を打破するのは難しいだろう。

 かといって俺になにか出来るわけでもない。


「専門家を呼ぼう」


 悪魔召喚は一度テイムしてしまえば精霊召喚と原理は同じ。バロンよりむしろ楽に呼び出せる。


「なんだご主人……ああ、これか」


 人質を見てすぐに理解するベル。


「悪趣味な男だな……」

「なんとか出来ないか?」

「まあ手っ取り早いのはここにいる者達を皆殺しにすることだろうが……ご主人はそれを望んでいないのであれば……2つ方法がある」

「おお」


 さすが悪魔、黒魔術のことは頼りになる。


「1つは……聖女による広域回復魔法だが……」


 ちょうど上で喋っていたリリィの言葉が途切れたタイミングだった。

 聖都にはクーデターに巻き込まれたけが人が多数いることがわかっている。驚いたことにリリィは聖都全域におよぶ超広域回復魔法を行使してみせた。

 本当に神の使いみたいだな……。


「全く……広域回復といえば聞こえはいいが、これは悪魔にとっては聖属性の攻撃だ……」


 ベルはそう言って表情を歪める。俺たちは疲労が回復するような感覚が得られるが、ベルには攻撃魔法になるんだな。大した効果はないようだが。

 そしてこれは今回の黒魔術に対しても同じことが言えてしまった。


「全然効いてないねぇ」


 ビレナが人質になっていた人間たちを見て言う。未だ生気もなく、身体に妙な紋章が刻み込まれたままだった。


「ふむ……」

「で、ベルちゃん、奥の手?」

「そうだな……これはあまりおすすめはできないが……ご主人たちならなんとかするだろう」

「どういうことだ?」


 ベルが手をかざし黒魔術が展開される。

 聖都では力が阻害されるといったがある程度はいけるんだな。


「本来であれば私がすべての瘴気と呪いを上書きしてやればいいんだが、そこまでの余裕はここではない。ということで、こやつらに込められた瘴気と呪いを外へまとめて放出する」

「そんなことできるのか……」

「できる。ただご主人、この作戦には問題があってな……」


 人質たちはまだ生気はもどらないものの、黒い瘴気は晴れてきていた。


「あ、わかったかも」

「察しがよいの。というわけだ。ご主人、頑張れ」

「え?」


 大聖堂をぶち破って黒い塊が外へと飛び出していった。


「キラエムとやらの黒魔術の術式、この者たちから吸い取った魔力、それらを増幅させる呪い、さらに私の魔力ものっておる」

「最後のが大きくない?」

「そんなことはないぞ?」


 目をそらすベル。多かれ少なかれ影響があるということだな……。

 つまりあれだ、この相手は悪魔の魔力でできている。当然、強い。


「と、いうわけだ。心してかかれ。おそらくご主人たちのパーティーを揃えて戦う必要があるぞ」

「そんなにか?!」


 これまでの相手はどんなものでもビレナ1人でぼこぼこに出来たというのに。


「リントくん、多分言ってる通りだよ」


 そういうとビレナは拳を突き出して衝撃波を繰り出したが、黒い塊はそれを弾き飛ばしていた。


「あちゃー」

「大丈夫かあれ……」


 あのへん、誰もいないよな……?

 いなかったと信じよう。大聖堂に高さで張り合う化け物と周りを気にして戦うのは無理だ。


「ご主人さま! ビレナ!」

「リリィ、ごめんね、失敗しちゃったよー」

「それはいいですが……あれはなんですか……?」


 黒い塊を見上げるリリィ。

 ちょうどよくバロンも追いついてきた。ギルを引き連れて。早い段階でギルのところに向かってたんだろうな。ほんとにこういう嫌な予感を感じ取る力が上位の人間たちはすごいなと思う。


「ただごとではないと感じたので教皇たちは意識を奪って森に隠してきたぞ」

「グルル!」


 今回の相手を考えればギルに来てもらったのはありがたい。

 ギル、ビレナ、リリィ、バロン、ベル、そして俺とカゲロウ。俺以外の6体がSランク超えの史上稀に見る豪華パーティーだ。


「しかしあれ、闇魔法の塊ではなかったのか? 聖女殿の魔法でなぜ消えない」

「あやつはもはや属性などといった概念はないぞ。少しずつ削り取るしかない」


 バロンの声にベルが答える。


「あ! じゃあさっきのはちゃんとダメージになってるんだね!」

「多分……な」


 自信なさげに言うベル。この状況にそれなりに責任を感じてはいる様子だった。


「もうこの際、聖都への被害は無視してやるしかありませんね」

「仕方あるまい……」


 故郷組リリィとバロンがそう言うならそれに甘えよう。


「周囲の被害を食い止めるくらいのことは力のでない聖都でもなんとかなる。ご主人、あとは任せた」

「ベル?」


 返事をした時にはすでにベルの姿は消えている。責任を感じたことによる気まずさから逃げた感じが強い。意外と可愛いやつだな……。間違いなくこの中で一番強いのに。

 とりあえず、ベルが大丈夫だと言うならいいだろう。思う存分やろう。

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