40 聖都

「おお……!」


 聖都の巨大な建造物に思わず声を上げる。王都でも見られなかった光景がそこには広がっていた。


「ご主人さまは初めてでしたよね。あれが神国の誇る、大聖堂です」

「ああ、これはすごい……」


 何の魔法で作ったのかわからない、一見質素ながらその装飾一つ一つにとてつもない価値を感じる。これが俺みたいなド素人でも感じ取れることがなによりもすごいところだと思う。


「ただまぁ、いまはあれが敵の本拠地だがな」


 流石にビレナについていくのはバロンでも大変だったようで多少息が荒い。


「といっても、敵の親玉は倒しちゃったんだし大丈夫なんじゃないの?」


 対するビレナは準備運動にもなっていないという様子で、バロンが少し報われない感じになっていた。

 ここで先に着いて様子を見てきたベルが戻ってきた。


「ご主人、やはり大規模な儀式魔法が準備されておった」

「どんなものなんだ?」

「聖堂の中にはなぜか大量の人間がおった。あれらを贄に使い、我らの世界をこじ開ける魔法だ」

「我らの世界……?」

「放置すれば聖都に野放しの悪魔が放たれるぞ」


 とんでもないもの用意してたな……。

 ベルはこんな様子なのでわすれがちだがこれでも純粋な戦闘力はビレナ3人分と言っていいほどの力がある。悪魔というのはそういう存在だ。その世界をこじ開ければ魔王が生まれるだけでは済まない可能性すら出てくる。


「まぁでも、ベルなら解除できるんだよな?」

「それがだな、ご主人……」


 嫌な予感がする。


「あれは場所が悪すぎる。大聖堂など、いかに強力な7大悪魔たる私でも力が存分に――」

「つまり役立たずなんだねー」


 ビレナが間髪入れずに突っ込んだ。


「うるさいわ! これだけの魔法の全貌を把握できただけ良いと思え!」


 まあそれはそのとおりなんだろう。


「となると、どうすればいいんだ?」

「そういう意味で言えば、私もあそこで力は発揮しにくいな」

「ま、それを込みでバロンはコントロールされちゃってたしねぇ」

「そうだったのか?!」


 バロンは気づいていなかったようだが、もともと闇属性に適性があると聖都では力を発揮しづらい状況になっているらしい。


「これは……私が動くしかないでしょうね」

「天使の力なら十分に対処出来る範囲だろう」

「そうですね……聖都にいる人たちに私の存在を知ってもらう機会と思うことにしましょう」


 そういうとリリィは大聖堂の上空へ飛びだっていった。


「リントくん、私達も念の為、大聖堂にいっておこっか」

「ああ」


 ベルが力を発揮できないような状況では人柱なしの術式は展開できないだろう。ベルが見つけたしかけだけなんとかしてしまえばそれだけでもこの状況は収束できるわけだ。


 聖都では力が出ないらしいベルとバロンを置いて2人で大聖堂へ向かった。


「ほんとリントくん、あっという間に強くなったねぇ」


 走りながらビレナが声をかけてくる。


「ビレナと出会ってから目まぐるしくいろんなことに巻き込まれてしがみついてるだけだから、実感がない」

「ふふ。ちゃんとついてこれるのがすごいんだよ、Sランクに」

「そりゃ、結構加減してくれてるだろ? 今だって」


 本気でビレナがスピードをだせば俺じゃ追いつけないどころか目でも追えないはずだ。


「流石にもう、今のリントくんだと振り切るのは難しい気がするんだけどなぁ」

「急にそんな強くなりはしないだろ」

「ふふ……ま、いっか。さて着いた着いた!」


 大聖堂の入り口に立つ。正面から見るよりも圧倒的な荘厳さに少し気圧されるが、そんなこと言ってる場合ではないな。


「おい! 何者だ!?」

「キラエム様に面会したければ――」


 ほとんど一般市民にしか見えない装備も整っていない兵士が現れたがビレナが無視して吹き飛ばした。

 大丈夫か……? まあ大丈夫か、あとでリリィが広域魔法で一斉に回復するだろう。


「リントくんも手加減しないでも大丈夫だからね!」

「ああ……」


 ビレナの勢いを見てるとむしろ、人質まで見境なく吹き飛ばしそうだ。相手への手加減がどうとかよりそれを止めることに集中したほうが良い気すらしてくる。


「侵入者!」

「キラエム様のいないときに……」


続々集まってくる兵士たちだが、1人が上を見上げて声を放ったことで俺たちから注意がそれた。


「おい! あれみろ!」

「は? この忙しいときに……え?」


 兵士たちの目が大聖堂の頂上に向く。

 リリィが現れたんだな。


「皆さん、聖女リリルナシルです」


 これまでと同じく、拡声魔法を使う。聖都は拡声魔法装置が配備されているようで隅々まで声が行き届くようだった。


「リントくん、急ごう」


 ビレナのスピードに着いていけば注意の逸れた兵士を振り切るのは難しくなかった。


「こういうとき、最後の悪あがきで後先考えずにやらかしちゃうのは、お決まりだから」

「なるほど……」

「リントくん、人質救出と、術式を止めるの、どっちがいい?」


 笑顔で聞いてくるビレナ。


「俺が人質の方にいくよ」

「ふふふー、好みの子がいたら教えてねー!」

「そのために行くみたいな言い方をしないでくれ……」


 ここに来てもやはり緊張感がないまま、2手に分かれて地下の牢に向かった。

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