42 パーティー戦

「初めてのパーティー戦だねえ、リントくん!」


 ビレナはどんな時も楽しそうだ。


「前衛はギルとバロンかなぁ? ご主人様、どこがいい?」

「そんな自由に決まるもんなの?」


 パーティーって結構バランスとるの大変って聞いたけど。

 ちなみにテイマーが嫌われる理由はこのパーティーで中衛しかできないところにもある。前衛職と後衛職はスペシャリストだが中衛は言ってしまえばいてもいなくてもいい。期待されるのはビレナのような大火力やリリィのような万能性だ。テイマーはほとんどの場合中途半端になる。


「例えばだけど、ご主人様の場合ギルに乗って竜騎士として前衛から中衛もできるし、カゲロウの火力を生かして後衛で固定砲台までできちゃうんだよね」

「キュルケちゃんが何かあった時の守備要員になるしね」


 そうなのか……。

 バロンも前衛から中衛ができる騎士。ビレナも範囲は同じ拳闘士。リリィは回復だと後衛だが根本的なステータスが高いので何なら自己回復し続ければ前衛まで張れる。選択肢が多すぎて最善がわからない。


「竜騎士がいいかな?」


 見透かしたようにビレナがいう。

 憧れはなくはない。


「ふふ。ご主人さま、せっかくならやっちゃお?」

「うむ。前衛は任せろ」

「じゃ、行こうか」

「グルル!」


 ギルが頭を下げて俺を乗せる。俺もカゲロウをまとってギルが自由に動きながら攻撃出来る準備を整えた。キュルケにガードを任せれば俺は完全に遊撃に集中できるので、カゲロウの炎を完全に攻撃に張り切って槍のように射出する技も覚えていた。


「よし……行くぞ」


 まずバロンが地を蹴った。次の瞬間には黒い塊まで肉薄し、斧を振り下ろして衝撃波を生み出していた。


「俺と戦ったときは本気じゃなかったのか……?」

「ご主人さまのテイムのおかげだって!」


 リリィがそう言って天使化を発動し空へ飛ぶ。広域回復を常時解放して俺たちを守るつもりのようだ。

 同時に無数の聖属性魔法を敵に放っているあたりさすが過ぎる……バロンに言わせればどっちが化け物かわからないレベルだとか。

 相手も相手でバロンを鬱陶しそうに打ち払いながら黒魔術をリリィへ向けるが、半分以上が相殺されそれ以外はリリィに当たることなく虚空へ消えていっていた。


「よーし、じゃあ行こっか! リントくん!」

「ああ」


 ギルに合図を出して空へ飛ぶ。

 リリィへ飛んでいた黒魔術がこちらへと向くがギルが曲芸飛行を見せて全てかわした。一部はキュルケが打ち返してくれたので相手もダメージを負った様子だった。


「にしても、これ前衛だけでいけるんじゃないか……?」

「ふふ、張り切ってるね、バロン」


 ビレナはそう言いながらバロンを援護するように衝撃波を飛ばし、時折自分も相手に肉薄してダメージを負わせていた。


「いけ!」

「グルルルルルゥゥアアアアアアアアアアアアア」


 マグマ状のギルのブレス。

 相手が初めて嫌がる素振りを見せ――


「バロン!!!」


 爆発したかのように自分の身体の一部である黒い塊をバリアのように展開させた。ここから見れば防御であるが、近くで戦っているバロンからすればあれは立派な攻撃だ。これまでそれらしい動きをしていなかったこともあってバロンはまともに黒の奔流に巻き込まれていた。


「カゲロウ、やるぞ!」

「キュキュクー!」


 手のひらに炎を纏う。ギルを旋回させて角度を調整した。


「炎槍!」


 ネーミングはそのままだがないよりは良いということでビレナに指導を受けている。

 名前の安直さからは考えられないほどの威力を秘めた槍状の炎が螺旋をまとって黒いバリアにぶつかって弾けた。


「おーりゃ!」


 炎槍の威力でよろけた相手に向けて無数の衝撃波がビレナから放たれた。みるみるうちに黒い塊がその体積を奪われて散っていく。


「バロンは?」

「大丈夫ですよ。ご主人さま」


 リリィの広域回復が消えたと思っていたが、その力はまともに攻撃を受けたバロンへ向けられていたらしい。

 さすがに原型さえ留めていれば治してみせるといっただけある。回復を受けたバロンから光が放たれた。


「うぉおおおおおおおおおおおお」


 俺にやったときと同じ。地面に向けて振り下ろされた斧から地を這う光の龍が生み出され、黒の塊を蝕んでいく。

 チャンスだ。


「炎槍!」

「いっくよー!」

「私も」


 それぞれの攻撃が黒い塊へぶつかり弾けた。苦し紛れに放たれた黒魔術をキュルケが打ち返す。


「きゅきゅー!」


 爆発のせいで視界から相手が消えた。いけたか……? 

 いや、警戒はといちゃいけない。そう、思っていたはずだった。


「え?」


 このメンバーが全員揃って戦う必要があるという事実にもう少し、真摯に向き合うべきだった。


「ご主人さま!!!」


 目の前に黒い腕のようななにか。

 黒い塊は巨体で動きが鈍いと信じ切ったことも災いした。実態のない魔力の塊など、物理法則に左右されないことはわかっていたはずなのに。


「リントくん!」


 ビレナがなんとか腕を払いのけようと動いたのが見えた。バロンは動けずにいたものの顔を歪めていた。世界がゆっくりに見える。キュルケも間に合わないのに必死にこちらへ剣を伸ばしてくれていた。

 ギルを巻き込むことに申し訳無さを覚えながら、全てを諦めかけたときだった。


 ――ヒュン


「ぐ……が……?」


 どこからともなく飛来した光を纏う極大の矢に、黒い塊が一瞬だけうめき声をあげて吸収されるように消え去った。俺に迫りくる腕ごと。


「ティエラ!」

「ふふ……間に合ってよかったわね」


 弓の放たれた方角を見ると、スレンダーな金髪の美女がビレナと親しげに挨拶を交わしていた。

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