36 Sランクの入り口

「家がでかくなったのはわかってたけど、まさか屋上にギルのためのスペースを用意してたとは……」


 驚いたことにリリィが魔改造した我が家の屋上は周囲に木々が生い茂り、ギルが発着できるスペースを残しながら周囲からその身を隠せるだけの要塞になっていた。

 これ、見ようによってはもうダンジョンになってると言っていいかもしれない。ボスギルもいるし。


「でもよかったでしょー? おかげでギルも調子良さそうだし」

「グルルゥゥゥ」


 リリィに撫でられて気持ちよさそうに声を出すギル。

 いまは背中に4人を背負っているが重さを気にすることはない様子だった。


「流石にギルに乗ったまま聖都までは行かないほうがいいよな?」

「そだねー。どう思う? リリィ」

「んー……いまは国境の守りをする余裕はないだろうけど、聖都は流石に守ってるかなぁ」


 ということで神国領域にはギルに乗ったまま入ることにして、そこからは徒歩で行くことになった。

 まぁこのメンバーなら全員が走ればスピードだけなら竜と互角だ。意味のわからない話だが……。


「ここは……?」

「んー、多分ぎりぎり神国領域、かなぁ」


 夜、灯りもないので魔道具のない農村はほとんど真っ暗になる、はずの場所。


「なんであんなに光が?」

「行こう!」

「待ってビレナ、私達はいま目立つわけには……」


 夜の農村に灯りが付いているのは2パターンの可能性が考えられる。

 祭りか、山賊の襲撃にあっているかだ……。いまの国勢を考えれば間違いなくあれは……。


「行こう」


 俺が声を上げる。


「ご主人さま……いまは……」

「いや、行こう」


 次に声をあげたのはバロンだ。


「理由はある。今の状況で国の中央に飛び込むより、せっかくの機会を生かして外堀の1つくらい埋めたほうが、良いことも有るだろうということだ」

「なるほど……」


 バロンの論理は破綻すれすれではあるが、要するに目の前で襲われる神国民を守りたいということだけはリリィにも伝わる。


「仕方ないなあ……騎士団長様は」

「ふっ……私にはよっぽど、聖女殿のほうが行きたがっているように見えたがな」


 そう言うと2人が猛スピードで灯りに向かって走り出す。俺もビレナに引っ張られるかと思ったが、ビレナは俺の手をとる様子はなかった。


「多分リントくん、もう追いつけるよ?」

「嘘だろ……」

「だって今までならリントくん、あの2人が走・り・出・し・た・の、見えなかったんじゃない?」

「ん?」


 確かにそうかも知れない……。今までなら2人は消・え・た・ようにしか見えなかったんじゃないだろうか。


「ふふ。走ってみよ?」

「あぁ……」


 カゲロウをまとって走り出す。身体が驚くほど軽い。景色がすごいスピードで消えていく。


「これが……」

「ようこそ、Sランクの景色へ」


 まだ走るスピードで追いついただけではあるが、Sランク相当の3人に追いついた実感が初めて生まれた。

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