フレーメル

「フレーメル、通り道だし寄っていこうか」


 ギルの背中は人が4人乗っても十分な広さがある。教皇はくくりつけられてぶら下げられているが。

 ……大丈夫なのかあれ?


「いいですね! ご主人さまの故郷!」

「こんな化け物たちが辺境地に行って大丈夫か……。私が村長なら竜が見えた時点でこの世の終わりを覚悟するぞ……」


 バロンの言葉に同意せざるを得ない。

 バロンはテイムされて以降、反抗的な意志はときおり見せるもののすごいスピードで諦めという名の順応を見せてきていた。結果このメンバーで最も常識的な振る舞いをするのがバロンという妙な立ち位置に落ち着いていた。


「まぁあんな村でもギルドがあって冒険者も多いから大丈夫じゃないかなー?」


 あれ? そうなると王都のときみたいになるのか?


「まぁなんとかなるでしょ!」


 俺の不安は一旦、ビレナの言葉に流されてしまった。


 そして……。


「やっぱりこうなったか……」


 フレーメルギルド支部には冒険者たちがあつまってギルを見上げている。


「ほんとに王都のギルドよりレベルが高いねぇ……」

「そうですね……。周囲の魔物のレベルも違いますし」

「驚いたな……神国が重大な魔獣災害に巻き込まれずに済んだのはこれか……?」


 3人ともフレーメルギルドに集まった冒険者たちのレベルの高さに感心する。

 俺もここまで王都で出会った人たちと改めて比べてそのレベルの差に改めて驚いていた。


「さて、じゃあここはリントくんが言って説明してもらおうかなっ!」

「え?」

「それがいいでしょうね。ご主人さまの凱旋ですし」

「知り合いもいるのなら説明もしやすいのではないのか?」

「いや……」


 俺のギルドにおける扱いを考えれば……。


「良いから良いから! ほら! いってこーい!」

「え? ええぇぇぇぇええええ」


 ギルの背から突き落とされた俺は慌てて精霊召喚でカゲロウを身にまとう。

 フレーメルは辺境、王都と違い常に危険と隣り合わせで戦いなれた冒険者たちはすべて、常在戦場の心構えを持つ。

 つまり――


「風よ」

「土よ」

「ウォーターカッター」

「ふんっ」

「闇に堕ちろ」

「待ってくれ! 俺だ!」


 俺の言葉は届くことなく無数の魔法と斬撃、矢を全身に浴びせられる。


「くそっ! カゲロウ! キュルケ!」

「キュキュゥー!」

「きゅっ!」


 魔法は弾き返す。自分たちの攻撃くらい受けきれるだろう。

 物理攻撃はカゲロウの防御力を信じる。

 無数の攻撃により落下の衝撃は和らげることができそうなことだけが救いだ。ただ、着地直後は硬直が生まれる。間違いなくこいつらはそのタイミングを逃さない。


「ぐっ」

「行くぞっ!」


 弾き返した魔法くらいで止まるやつらではない。着地と同時に近接専門の剣士や槍使いなどが突進してくる。


「ふぅぅぅぅぅ……」


 カゲロウに任せても良いんだがせっかくなら1つ、覚えた技を使おう。覚えたばかりで不安がないわけではないが、ちょうどいい練習だ。


「いくぞ」


 カゲロウと意識をリンクさせていく。カゲロウの持つ能力の1つ、蜃気楼。実態のない幻術でありながら、実体を伴う攻撃を絡めた影分身。


「なんだこいつっ!?」

「化け物め」


 それぞれ冒険者たちが応戦するが全てにカゲロウの力があるとかんがえれば、そう簡単に相手はできない。そのすきにランクの高い冒険者たちから無力化していく。


「うぉっ?!」


 5人目。この中で最もランクの高いAランクをすべて無力化したところで分身をとく。

 多分周りから見れば、いままで戦っていた幻獣が一箇所に集まって人の形を作り出したように見えたはずだ。


「少しは人の話を聞いてほしかった……」

「「「リントっ?!」」」

「ただいま……」


 手荒い歓迎を受けながら、久しぶりに故郷のギルドにたどり着いた。


「終わった?」


 頃合いを見計らっていたらしいビレナが飛び込んでくる。


「あれは……瞬光?!」


 続いてリリィ。


「お疲れ様ー! もうすっかり使いこなしましたね! ご主人さま!」

「聖女様?!」

「いやご主人様って!?」


 そしてバロン。


「しかし実際の戦闘を見ると……うちの騎士団の弱さが際立つな」

「あれは神国の滅龍騎士団の団長だぞ?!」


 これ、やっぱり俺よりこのメンバーが降りてきたほうが早かったんだろうなぁと思ったが、まぁいい。俺みたいな駆け出しの冒険者が王都に行くパターンは無数にあるからな。名前が覚えられていただけ良かったと思おう。


「ちょっと滞在するつもりなんだ。俺の家ってまだ残ってる?」

「あ、あぁ……」


 顔見知り、と言って良いのか微妙なところではあるが声をかければ帰ってくる程度のつながりはある。


「じゃあ、そこで寝泊まりすればいいか。今日はそこで休もう」

「やったー! リントくんの家だ」

「ふふ……いいですね。ご主人さまの家」

「また……やられるのか……?」


 ギルドに顔を出す必要は特にない。神国に向かうまでは依頼も受けにくいし、バロンに至っては冒険者登録もしていないためパーティー認定されていない。ヴィレントが色々やってくれるといっていたからここでできることはないだろう。


「いやいや、ちょっとまてリント」

「ん?」

「お前……リントであってるんだよな?」

「そうだけど……」


 フレーメルの冒険者たちにとって俺は取るに足らない雑魚で、ましてやテイマー、蔑む対象でしかなかったはずだ。


「いや……えっと……」

「心配しなくても、別になにかしに来たわけじゃないから……」

「そ、そうか……」


 今声をかけてきたパーティーには見覚えがある。俺がまだEランクだった頃に絡まれてその日1日で集めた薬草類をすべてぶちまけられた相手だ。ただ、そのくらいのことは日常茶飯事だった。いちいちそんなことのお礼参りをしていたら切りがない。


「いいの? リントくん」

「ご主人さまが何をしても、ある程度は治せますよ?」

「お前、本当にこいつらとパーティーでいいのか?」


 俺にその気がないことがわかっても3人はそれぞれに反応を見せる。


「それより気になることがあるから」

「あー、例の洞窟!」

「しかし星の書といったか? アレの影響を受けたものがこうも揃うとはな……」


 ビレナが持っていた本は当然リリィも持っていた。ビレナが拳闘士の書、リリィが回復士の書だ。

 バロンにも聞いてみれば同じ紋章の刻まれた騎士の書を所持していることがわかった。俺以外がSランク、俺もカゲロウのことを考えれば実質Sランクと言われていることを考えれば、書物の影響力は計り知れない。


「神の書物、賢者の遺産……いろんな呼び方はあるけど、歴史上でもこの書物に影響を受けてる人物は多いです」

「まぁ、普通の教えを無視したとんでも理論満載だしね。こんなものをまともに取り合おうとする時点で普通じゃないよ」


 ビレナが言うとそのあたり、本当に説得力が違うな……。


「俺はそれしか知らなかっただけなんだけどなぁ……」


 なにはともあれ、俺が見ていた書物の回収に向かうため、未開拓領域に足を踏み入れた。

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