謎の遺跡

「何も出てこないねぇ」


 ビレナが退屈そうに言う。そりゃそうだろう。Fランクだった俺が出入りできたような森の入口に魔物なんかでられたらやってられん。


「しかし、冒険者も来ないのか?」


 バロンが問いかけてくる。


「あぁ、こっちから入るのは効率が悪いからな」


 殆どの冒険者はこちらから森に入ることはない。

 俺は人が多いと絡まれたりその日の食い扶持を奪われる可能性があったのでこそこそ動き回っていたわけだ。治安が良いとは言えないフレーメルは別にテイマーでなくても低ランクにとって居心地は悪い。

 もともとカラハム領土を含んだビハイド辺境伯家の管轄地域の中でも、まっとうに生きられなかったものがたどり着くのがフレーメルの冒険者ギルドだ。冒険者なんて命を賭ける職業、普通に生きていれば望んでなるものでもないという要素はある。


「私はなりたかったからなったけどね」

「私もそうですね」

「冒険者なんてものは騎士や兵士になれなかった者たちの掃き溜めと言われることもあるからな。お前達を見ているとそんなことは口が裂けても言えないが……」


 この3人が特殊なわけだ。

 俺はもともとフレーメルの生まれ、そして両親がいない。となれば、奴隷として生きるか命をかけて森に出るかの二択しかなかったわけだ。当然何度も死にかける思いをしているが、本当に死ぬよりましだったからここまでこれた。


「冒険者としてランクがあがれば、小さな貴族なんか吹いて飛ぶくらいの力を得ますしね」

「それでも、普通は聖女の名声を捨てるリスクを負ってまでやるものじゃないけどな……」


 楽しそうに話すリリィと呆れ顔のバロン。なんだかんだそこまでいがみ合ってるわけではなさそうだった。


「で、そろそろ?」

「ああ、そこだ」

「え? 何もないように見えるけど……」

「え?」


 確かに枯れ葉やら倒木でわからなくなっているがビレナが見逃すとは思えない。


「リリィはわかるよな?」

「んー……言われてみれば……? バロンはどうですか?」

「ん? ああ、あれか。だが、言われなければ気づかないな」


 地下へ続く寂れた階段。入り口はもう見えている。


「多分だけど、ご主人さまと星の書が共鳴したから見えやすくなっているのではないかと」

「なるほど……?」

「逆に言えばこの中で一番テイマーの素養がないのがビレナということでもあります」


 まぁ、それは確かに?


「ま、とにかく行こー!」

「はいよ」


 3人を連れて洞窟のような、遺跡のような謎のスペースに足を踏み入れる。


「ライトー」


 リリィが暗がりを照らす。そうか。魔法って便利だな……俺は毎回松明を準備していた。

 そしてその分、見えていなかったものも明らかになる。


「なんですか……これ?」


 広くはない一本道をつくる壁にびっしりと、古代文字が書き殴られている。


「それにこれって……」


 ビレナが指し示すのは血痕。血が飛び散って古代文字がところどころ隠れている。


「リリィ、読める?」

「うーん、大事なところだけ血がこびりついてますね……」


 俺には全く読み取れないがリリィはこの手のものはばっちりらしい。ただそれでも、大切なところに限って血がこびりついていて、これは洗浄してしまえば書いてある文字も消えてしまうため今の所打つ手はないようだ。


「おおまかなところ、何が書いてあるんだ……?」


 バロンが尋ねる。


「ん。星の書の数、行方、目的……そういった内容ですね」

「うそっ!? 何個あるの?! どこにあるの!?」

「そういった欲しい情報だけがないという状況です」

「あー……」


 なるほど……?

 ただ、だとしたらここは……。


「リントくん、ここで他にも書物を見たって言ったよね?」

「あぁ、でも、ほとんど役に立たなそうな……いや……」


 言いかけてとどまる。

 たしか俺が読めないからと無視していたものがあったはずだ。


「行ってみよう」


 奥へすすむ。一本道しかないんだ、迷いようはない。

 そして広くもない。すぐに目的地にたどり着いた。


「これは……」

「あれ? こんなぐちゃぐちゃだったのか……」


 松明の限られた光と違って一面が光っていると際立つ。


「テイマーの星の書は?」

「ん? ああ、これと……これと……」

「え? なんで……?」

「ん?」


 ビレナが驚いている。ああ、そうか……。


「最初からバラバラだったよ」

「これだけバラバラの中でもわかるの?」

「わかる……そうだな。そう考えるとやっぱり、星の書って特別だったのか」

「ご主人さまはさらっとやっていますが、私達にはテイマーの書だけ見分けるのは不可能ですね」


 そうなのか……。


「でもこんな貴重なものを、どうして……」

「古いからボロボロになってるのかと思ってた」

「いや、私の見せた本、全然綺麗だったでしょ?」

「確かに! ビレナってもっと保管状況汚い気が」

「んー?」

「いや……」


 確かにそうだ。ビレナが持っていた本に古さは感じなかった。


「とにかく、かき集めよっか」

「と言っても、ご主人さま以外わかりませんね……」

「星の書でなさそうなものにも興味深いものはある。我々も手伝おう」


 俺はテイマーの書を、3人もそれぞれに散らかっていたなんかよくわからないものたちを拾い集めていく。


「これ……多分古代魔術の関連書物ですね……」

「そうなのか? 全然わからなかった」

「闇魔法……禁術の説明がある。聖女殿は読めるか?」

「んー……全部は難しい、けどいくつかは再現できるかも」


 あっちはあっちでとんでもないもののようだ。


「リントくん、全部あった?」

「んー……多分」

「多分?」

「ちょっとばらばらになってるページがあってさ、後で繋げば揃うと思うけど……」

「にゃるほど。じゃ、一回でよっか」


 ビレナにつづいて外に出る。


「ご主人さま、さっきより入り口がわかりにくくないですか?」

「ん? ああ、たしかに……」


 入ったばかりだというのに入り口を見失いかけるほど存在感がなくなった。


「不思議なものだな……」


 バロンの言う通りだ。


「さて、この書物は放っておいてばらばらになったりしないから、誰かがやったってことになるけど……」

「テイマーで有名になった冒険者っていたっけ?」

「この世代にとってテイマーは劣るべきものだったからな……」

「ま、今度エルフに聞こうか」


 ビレナの軽い言葉にバロンが反応する。


「エルフに知り合いがいるのか?」

「たぶん今は女王になってるけどね」

「女王……」


 そういえばダークエルフとエルフってあまり仲良くないのか?

 いやでももう随分前に枝分かれしていまは名前だけしか繋がりのない別種族って認識のはずだし、バロンの年齢を考えれば確執はないか。


 そういえば年齢制限が必要そうなガラクタだけなくなってたきがするけど、まぁそんなもんだろうと特に何かにすることもなくその場を後にした。

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