騎士団長
竜殺しのバロン率いる滅龍騎士団は全部で50名。すべて団長直下の兵とのことだった。
超精鋭のみを集めた選りすぐりの部隊という謳い文句があるが、実態はそれ以上いると騎士団に国を乗っ取られるのではないかという教皇の小物感あふれる危惧によるものらしい……。50人くらいなら、守衛や金にものを言わせて雇う傭兵たちで抑え込めると思っているようだが、ビレナの見解はこうだ。
「実際、Sランク相当の団長1人で神国なんて傾けられるんだけどね」
「じゃあバロンってのは結構良いやつなのか?」
「本当にいいやつならあの国の状態を見て放置はしませんね」
まぁ確かにそうか……。
「バロンは聖女に次ぐ国の象徴。力を恐れた教皇が待遇だけは良くしてたから、人気を集めながら美味しい思いだけ出来る状態だったんだよね」
「一応力だけはあるから、団長が留守の隙をついてクーデターは起きた。戻ったら逃げ延びた教皇とたまたま出会ってこっちについてきたという流れです」
話をまとめるとろくなやつではないが強いことは間違いないらしい。滅龍騎士団はバロンさえいなければCランクにも満たない雑魚の集団、とビレナが言い切る。俺もCランクで大差ないんだけど……。
「リントくんはテイマーなんだから、実質従魔のトータルランクが強さでしょ! Sランク相当が少なくとも3だからね?」
「実感がなさすぎる」
そしてそんなことを言いつつ目の前にいるそのうちの2は手伝う気はないしな。
いやまぁ、俺になにかあれば原型さえとどめていれば生き返らせてくれるらしいが、出来ればそんなギリギリの戦いに挑みたくはなかった。
「リントくんが思ってるより、精霊召喚って強いんだよ」
「そうですね。慣れれば私達ではご主人さまに勝てなくなります」
なら慣れてから戦わせてほしかった。
「ま、戦ってるうちに覚えるって!」
「大丈夫ですよ。手足が吹き飛んでもすぐ直してあげます」
終始軽いノリの2人に送り出されてしまう。手足が吹き飛ぶことを心配してくれる聖女様はいなかった。
◇
どうやって俺とバロンが戦う状況を作るのかと思ったら、近くにいた滅龍騎士団の団員を手当り次第殴ってから解放し、指定した場所にバロンを連れてこいと言って回るというもうどっちが悪役か全くわからない暴挙に出た。
実行犯はビレナだがやりすぎたときに顔色1つ変えずにヒールして回るリリィも大概だなと思う。
「さて、本当にどっちが悪役かわからなくなったわけだけど……」
「にゃはは」
「ご主人さま。だいたいのことは勝ったほうが正義なんです」
本にまみれて来た聖女様にそう言われると言葉に重みがあった。きっとそういう歴史をたくさん学んできたんだろう。せっかくの立派な知識は完全に悪い方向に生かされてしまったわけだが。
「ま、そろそろ来るから、いつも通りがんばろー」
「非公認とは言えSランクの相手なんてなかなか出来ません! 頑張ってください! ご主人様!」
「ほんとに俺がやるんだな……」
程なくして1人の騎士が現れた。ほかの滅龍騎士団たちと同じ装備でありながら、ところどころに豪華な意匠がくわえられており一目に階級が違うことがわかる。
「貴様らか……」
フルフェイスの兜からくぐもった声が聞こえる。
「そだよ」
「久しぶりですね。バロン」
「なっ!? 聖女殿?! それに後ろで縛られてるのは……」
猿轡を噛まされて転がる教皇の姿をみたバロンが思わず兜を取った。
「あれ? 女?」
「あ、リントくんは知らなかったのか!」
やや褐色気味の肌に勝ち気な瞳。輝く長い髪が兜から解き放たれたようにさらさらと宙を舞う。ダークエルフだろうか……?
「ご主人さま、好みですか?」
「好みというか、リントくんは守備範囲が広いからなぁ」
何も言うまい。
「おのれ……。我々を愚弄するかっ! 聖女殿もなんらかの術にかかっていると見える!」
すごい。ある意味テイムは術だから間違ってはいない。
「今すぐ解放するっ!」
それだけ言うと背負っていた斧を振りかぶり、こちらへ飛び出してきた。
ビレナと違って目で追える分よかった。
森の中に不自然に開けた草原。ほどよく岩や木々があるおかげで戦うフィールドとしても悪くない場所になっているんだが、目の前の騎士には障害物など意味をなさない。障害物はすべてなぎ倒しながら一直線にこちらへ向かってきていた。
「ほらほら、来たよ。リントくん」
「まずは倒さないと、後のお楽しみもなくなっちゃいますよ。ご主人さま」
「ほんとお前ら……」
口論する余裕はないのですぐに精霊召喚でカゲロウを呼び出す。途端、身体が羽のように軽くなった。そのままバロンの攻撃をかわすために地面を蹴る。
ただここで想定外のことが起きた。
「なっ?!」
俺が避けられると思っていなかったようで、驚いた様子のバロンが声を出してこちらを睨む。
「おお……」
いや俺も驚いた。斜めに跳んで逃れようとしたらまさか頭を飛び越えて対面まで跳ぶとは……。攻撃の威力こそ前回調整できたものの、このあたりの加減はやはりまだできていなかった。
「あ、心配しなくても私達は見てるだけだからさ」
「賊の言うことなど信用できるかっ!」
囲まれるような状況になりビレナとリリィと俺を順番に視界に入れながら後退するバロン。
「ま、信用はしなくていいけどね」
「ふんっ」
一旦戦意のない2人ではなく俺を狙うことにしたらしい。また駆け出して来たかと思うと今度は振りかぶった斧が光を帯び始めた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
そのまま突進してきたバロンが斧を振り下ろす。
「――っ!」
幸い避けられたので振り下ろした先に俺はいない。ただ向こうも直接は狙ってはいなかったらしい。
「なんだこれっ!?」
地を這うように光の奔流が俺のもとに襲いかかってくる。その姿はまるで光の龍のようだった。
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