哀れな教祖
「ここ! 1人だけ露骨に高い部屋とってさー。私一応立場的には上のはずなのにねぇ」
リリィの案内で連れてこられたのは教皇が泊まっている宿の部屋だった。
「じゃ、行こっか」
リリィのときと違いあまりテンションの高くないビレナだが、仕事はしっかりこなす。見張りは当然のようにすでに無力化されていた。
「なんだ貴様らは?!」
教皇を捕らえるのは非常にあっさりおわった。
部屋の中にいた従者は「とつげきー!」と愉快そうに叫んだビレナに吹き飛ばされている。戦い始めれば楽しそうにするあたりがらしいといえばらしかった。
「ふふ。つい最近やられたわりに、随分無防備ですね」
聖女は冷たい微笑みを教皇に向ける。
「これは一体、何の真似ですかな? 聖女殿」
「神のお告げを受けました」
「は?」
ぽかんとする教皇。
「はははは。何を言い出すかと思えば……。お戯れはこのくらいに。今ならば私は貴方を許しましょう」
教皇の言葉に応えたのはビレナの拳だった。
「捕まってるくせになんでこいつこんな偉そうなの?」
ーーパーン
「ぶはっ。貴様っ?!」
「うるさい」
ーーパーン
「あ、やりすぎた! リリィ〜」
「はぁ……」
リリィが手をかざすとぐったりしていた教皇が傷一つない状態で意識を取り戻した。
「で、誰を許すって?」
「ひっ……」
「あっ、ちょっと漏らすのはやめてね。そこまでは面倒見きれないから」
黙ってすごい勢いでうなずく教皇。もはや偉そうなのは豪華な衣装だけとなった。
「さ、行こっか」
すっかり怯えきった教皇を引きずって連れ出す。ビレナの頭ではもうギルに乗って神国に殴り込みに行く気だろう。ストップをかけたのはリリィだった。
「あー、少し待ってくださいビレナ。一応もうひとり捕まえといたほうがいいのがーー」
「ふふふふ……はははははははは」
リリィの言葉をきっかけに教皇が壊れたように笑い始めた。
「うるさい」
「ぐはっ」
ビレナに黙らされる。
だが教皇は自信を取り戻したようでめげなかった。
「ふんっ……。あやつがおった。そうだそうだ。貴様らなどーーぐっ……」
ビレナの手刀が入り教皇の意識が刈り取られた。
「今回は綺麗に寝かせたから大丈夫だと思う」
「ま、いっか……」
基準がわからないが今回はリリィの回復はなく、このまま寝かせておくらしい。哀れ教皇、ビレナの前では権威は意味をなさなかった。
「リリィがいいかけたのって、騎士団の?」
「はい。神国唯一の軍事力、滅龍騎士団。団長のバロンだけは警戒しておいたほうが良いと思います」
「強いの?」
「一応、竜殺しですから……」
竜殺しのバロン。神国の滅龍騎士団という大層な名前の元にもなった団長。冒険者でいえば間違いなくSランクの力があるらしい。
なんでそんなのがいるのに今思い出したみたいなノリなんだと突っ込みたくなるが、2人ならなんとかしてしまうから気にしてなかったのかもしれない。
だがその尻拭いは今回、あらぬ方向に飛び火した。
「ちょうどいいかもしれませんね」
「そうだね! ちょうどいい」
「え……なにが?」
2人が口を揃えて放った言葉に嫌な予感しかしない。
「竜殺し殺し、やっちゃおっか」
ビレナに喋らせるとろくなことにならないなと天を仰いだ。
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