Sランクパーティーの実力
Cランク昇給試験。
構えることもなく棒立ちの元Aランクという職員のおっさんが声をかけてくる。
「おう、どうした? とっとと来い」
「一応確認だが」
「なんだ今更」
隙だらけの男にカゲロウを差し向ければそれで終わるは終わるのだが、念のため確認する。
「テイマーの場合、俺の従魔が一撃くわえたらそれでいいんだな?」
「そりゃそうだ。お前らにとってそれが武器なんだ。遠慮なく使え。見たところそのふわふわした弱そうな生き物だけだろう?」
「今いるやつはな」
カゲロウはすぐ呼べる。ギルも向かっている。なんならドラゴンの数倍怖いビレナという猛獣もそろそろ起きる。自分以外の味方が恐ろしいほど強いと改めて認識する。
「まだ言ってんのか……んじゃ、ドラゴンとやらが来る前に痛い目にあってもらおうかっ!」
地を蹴りようやく構えた剣をこちらへ向けて振りかざす試験官、ギュレム。
昨日の死闘を思えば欠伸が出るほど遅かった。いや実際にはそんな余裕はないけれど。
「キュルケ」
「きゅきゅー!」
「馬鹿が。悪いが従魔にまで手加減はしねぇぞ? 死んでも恨むなよ」
向かっていったキュルケを叩ききらんと剣が振るわれる。試験用に刃を潰してるとはいえ致命傷にはなり得る攻撃だった。
普通の相手ならば。
「なっ……」
キュルケに向けて横薙ぎに振るわれた剣は、羽毛に覆われた身体に当たった瞬間ピタリと動きを止める。
当然だ。今のキュルケは危険度Sの魔物の攻撃を防ぐのだから。なんでか知らんけど。
「馬鹿な……」
「そんだけ隙だらけじゃ一撃どころの騒ぎじゃないだろ。もういいか?」
「ふんっ。お前自身が何もしていないのに認めると思うか?」
「はぁ……」
仕方ない。
「精霊召喚」
呟くと同時に風が身体を纏い、ほどなくしてその風は炎となって全身を覆った。
「なんだ……それ?」
「いくぞ」
身体の軽さが違う。唖然とするギュレムに接近し、持ってた剣を蹴り飛ばす。
「ひっ……」
「あ、ごめん……」
飛ばした方向が悪く例の性悪受付嬢の耳元をかすめていった。ま、耳くらいなら取れても大丈夫らしいからいいや。
いやまずいな、この辺りほんとうにビレナに毒されてるぞ……。
「さて、一撃か、倒したらどうなるんだ?」
「待て! 待て待て合格だ! だから拳を引っこめろ!」
「本当にいいのか? 俺はまだ何もしてないだろうに。一撃くらい与えておかないと、なぁ?」
わざと顔を出したカゲロウをギュレムに近づける。
「ひっ……か、勘弁してくれ……悪かった、俺が悪かったから」
「あら? もう終わっちゃったのかぁ。なんで起こしてくれなかったのさ!」
「何回かは起こしたぞ」
眠そうな目をこすりながらビレナがやってきた。
「は……?」
「あー、強い強いって噂の試験官、アンタだったのね」
「ビレナ……先生?」
尻餅をついたギュレムが目を見開く。
「知り合いか」
「むかーし、ちょっと学園の講師をやらされた時にねえ」
「先生……こいつは一体……」
「ん? 私のご主人様。あ、まだ試験中? じゃあ私が戦ってもいいんだよね」
まあ厳密にいえば受付嬢が止めてないからまだ試験中だな。
あの一件以降こちらも尻餅をついてプルプル震えているだけで終わらせられないだけみたいだが。
「なっ、パーティーでの参加を認めたら意味がないだろう! 先生はそこで……へぶっ」
「ん? テイマーの試験に従魔使っちゃダメなわけないでしょ?」
殴ってから声をかけるな、首が変な方向向いてるし聞こえてない絶対。
「で、大丈夫だよな? 試験」
「ひっ……」
「いやそんな怖がらなくても……あぁ、こっちか」
受付嬢が見上げた先には、黄土色の巨大なドラゴンがいた。
「あ、ちょっと遅かったねぇ。ギルー」
ビレナが早速じゃれつきにいく。
「そんな怯えなくても、見たとおりうちの従魔だから」
なぜかビレナがクンクン匂いを追いかけるような仕草を見せる。
「あっ……」
指差した受付嬢のスカートのあたりに、水たまりが出来ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます