精霊使い見習い

 心のなかで呼びかければカゲロウは応えてくれる。

 俺の周囲へ炎の鎧となって現れ、俺の肩あたりから顔だけだして甘えてくるので撫でてやる。このあたりどういうつくりになっているのかまったくわからなかった。ま、意思の疎通が図れる上にしっかり守ってくれているから別にどうでもいいんだが。


「その状態でツノウサギが襲ってきても、リントくんが怪我しないどころか多分ツノウサギが燃えてなくなるから」

「それはそれで困るけど……」


 どうせなら倒した分を無駄にしたくない。


「大丈夫大丈夫! 角は残るから! ま、リントくんが出力をコントロールできれば大丈夫だよ!」

「その練習ってわけか……」


 実際に見つけたツノウサギを追いかけようと手をかざすと、勝手にカゲロウの一部が飛び出して逃げる間もなくツノウサギが焼失した。角だけを残して。


「嘘だろ……」

「にゃはは。カゲロウちゃんも気合が入りすぎたねえ」


 相変わらず顔だけが独立して不気味な姿だが、ビレナは気にする素振りもなく撫で回していた。

 ちょっとシュンとなったカゲロウは顔だけの状態でもまぁ、かわいく見えた。


 ◇


 その後、お互いに加減がわかってきたところでツノウサギの討伐数が100を超えた。


「これでこの農園は大丈夫でしょう!」


 討伐の証の角以外は村におすそ分けする。20匹目くらいから角以外の素材も残せるようになり、最終的には丸焼き程度でおさまるようになった。味はうさぎと同じだから美味しく食べてくれるだろう。

 他の依頼も俺の練習を兼ねてこなしていったが、夜までになんとかすべて終えることができた。移動手段ギルの存在も大きかった。


「んふふー。じゃ、近くのギルドに納品して、宿とって今日もしよっか」


 夜モードに入ったビレナと俺の分身をなんとか鎮めながらギルドのある村へ向かう。

 ドラゴンをちいさな村に連れ回すわけにも行かないのでギルとは朝に待ち合わせをして開放し、途中から徒歩で村を尋ねる。こう考えるとそのうち、魔物召喚も覚えたほうが良いなと思った。


「しっかしリントくん、一体どこでそんな技術を身に着けたの」

「別に特別なことはないぞ。拾った文献を見てテイマーのスキルを覚えただけだし」

「え……?」


 ビレナが驚く顔は初めて見たな。


「拾った文献って、もしかしてだけど、こんな模様が描いてなかった?」

「ああ! それだ!」


 懐かしいのを見た。ビレナが取り出した本に書かれた模様は、まさに俺が拾った文献の表紙にも描かれていたものだった。


「色々納得した……」

「それがなにかあるのか……?」

「うん……えっと……どこから説明しよっかな……」


 ビレナが真面目な顔をしているのは初めて見るような気がする。これはこれで綺麗だな。


「にゃはは。そんな見られると恥ずかしいなぁ……」

「ああ、ごめん」


 ちょっと見惚れていたこともあって気まずい雰囲気で目をそらした。


「ふふ。その本だけどね、伝説の賢者が残したとも、神が書いたとも言われる本なんだよね」

「は……?」


 嘘だろ? 地元のだれも入らない古びた洞窟の奥に捨ててあったぞ。

 何なら周りに卑猥な絵本も捨てられてるくらいのところに。


「ちなみにその本は?」

「汚いからそのままだ。読んだから別にもういいかと思って」

「にゃるほど……」


 そんな価値のあるものならもう少し大事そうにしておいてほしかった。


「一回リントくんの故郷、行ったほうがいいね」

「えらい早い里帰りになるなぁ」

「故郷に帰るくらいの箔は十分ついたでしょ?」


 まぁ、Sランクとパーティーくんでドラゴンテイマーになったと言えばそうだろう。いや冷静に考えると意味がわからないな。


「両親にも挨拶しなきゃかー」

「いや、両親はいないから大丈夫だ」

「そっか。そうなのか。一緒だねえ」

「一緒か」


 こんな話は珍しくない。うちは事故だったが、長年生きてる獣人のビレナともなればもう、何が合っても不思議ではない。


「ま、次の目的地はリントくんの故郷だね! ついでにそこでBランクにしようね」


 普通はついででいけるような話ではないんだが……。

 まぁ、もうビレナと一緒にいて普通という言葉は忘れたほうが精神衛生上いいだろうな。

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