Cランクへ向けて

「じゃ、精霊契約もしちゃって、そしたら今後はリントくんも戦えるし」


「どうやって?」




 ビレナの戦いにまじれるイメージなど微塵もない。精霊のいいところは自由に出し入れできる分、魔物より便利というところだけだと思っていた。


「精霊使いってAランクくらいになるとみんな、憑依して戦ってるよ?」

「そうなの……?」


 そんなことできるのか? 憑依ってなんだ?


「ま、しばらくは戦いになったら召喚して身にまとうようにしていればいいと思うよ」


 応えるようにカゲロウが炎の形を変えて俺の周りに鎧のようにくっつく。


「おぉ……」

「いいじゃんいいじゃん。さて、目的の子も手に入ったし、これなら10個とも達成できるね」

「そういやそれをやりに来たのか」


 あまりにぶっとんだ相手のせいで忘れかけていた。

 2人と1匹、ギルの背に乗っていよいよドラゴンライダー体験のスタートとなった。


「竜、一回乗ってみたかったんだよねー」

「だから鞍持ってたのか」

「役に立ってよかったでしょ?」


 普通の冒険者なら無駄なものは持ち歩けないが、ビレナくらい収納袋のスペースに余裕があればこういったこともできるわけだ。備蓄や装備の換えなどの点でも収納袋の存在は大きい。ビレナが人の倍依頼をこなせるのは、こういったところにも理由があると感じた。


「じゃ、しゅっぱーつ!」


 竜にまたがってテンションを上げたビレナの号令に合わせ、ギルが羽ばたく。これまでとスピードこそそこまで変わらないが、格段に安定感が変わった。ギルの背中は心地いい。腕がちぎれる心配がないからな。

 ただそれでも猛スピードで雲を切って進むのはなかなかのもので、ビレナにしがみつくという点は残念ながら変わっていなかった。


「ふふ。えっちー」

「いや、わざとじゃないから?!」


 からかわれながらも楽しく空の旅は進んでいく。手には柔らかい感触が残っていた。


 ◇


「さくっといこー!」


 その言葉通り、ビレナの経験と嗅覚を遺憾なく発揮してクエストに必要な魔物や素材を獲得していく。


「すごいな……」

「まあでも、これはほとんど私やってないよ?」


 その言葉通り、ビレナは誘導だけすると俺に仕事を譲ることが多かった。

 Cランクの依頼に竜と炎帝狼というやりすぎなコンビが遺憾なく力を発揮した結果、思いの外時間もかかることなく依頼は進んでいく。


「ただ、ビレナなしじゃこんな狩場しらなかったしな……」

「にゃはは。私だってリントくんの従魔なんだから、このくらいはいいのいいの!」


 そう丸め込まれながら引き続き依頼は順調に進み、いよいよ一番厄介なツノウサギ100体の討伐というクエストとなった。本来は気が遠くなるような話だが、ビレナが的確に巣を見つけてくれたおかげで数で言えばなんとかなりそうだ。


「じゃ、リントくん。精霊召喚の練習してみよっか」


 これまではカゲロウを自由にしていただけだったが、俺が直接戦うことになる。


「やれるのか……?」


 ツノウサギは強さで言えばただの野うさぎが凶暴化した程度。数体相手なら俺でも倒せる。

 厄介な点が2つある。1つはスピードよく逃げ回ること。これはまだいい。捕獲や討伐が難しいだけだから。問題は集団化して襲われる危険があることだ。

 ツノウサギは1体ずつの強さこそそこまでではないものの、気づくと囲まれてなすすべもなくその額から生えた一本角で突き刺される危険がある。

 今回はビレナがいるしカゲロウがやるなら心配ないと思っていたんだが、俺が戦うとなれば集団相手にならないように気をつける必要が出てくる。


「こんだけ巣だらけの場所で俺が戦ったら多分、3分で死ぬけど……」


 ツノウサギの群れはCランクまでの冒険者の死因として有名だ。そして俺はDランクだ。普通に死ねる相手だった。


「大丈夫大丈夫。リントくんはカゲロウをまとって戦うんだから! 実質Sランクだよ!」

「いやそんな……」


 無茶な……話でもないのだろうか? カゲロウはこれまで独立して縦横無尽に暴れていたが、あれが俺にまとわりつくことになれば……。


「ま、とにかくカゲロウを召喚して!」

「わかった。おいで」


 カゲロウへ呼び掛け、精霊召喚を行った。

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