新たな力
「熱くないのか?」
おとなしくなった炎帝狼を撫でるビレナを見て言う。見ようによっては火にまとわりつかれているようにしか見えないが、よく見ればその炎は狼の形をしている。
「さっきの私やキュルケちゃんと同じで、魔力に覆われてるだけだからねー。炎に見える魔力って感じ」
「なるほど」
大人しくしている炎帝狼の元へ向かうと、腹を見せてきた。
「服従のポーズだねえ。さすがご主人さま」
「ビレナの力でしかないけどな……」
「私もリントくんの使い魔なんだから、テイマーとしては実力通りでしょ!」
そうは言うけどこの場合どうなんだろう……。俺、何もしてないぞ……。
「にしてもリントくん、改めて上手だったねー。戦い」
「そうか……?」
何も考えてない、というより考える余裕がなかった。
「キュルケちゃんとギルだけじゃなく、私の立ち位置も利用して戦ったでしょ?」
「そりゃ、超格上との戦いだからな。使えるもんは何でも使うだろ」
「ふふ。それが結構、難しいんだよ。あっ、ごめんね。だいぶ怪我しちゃったね」
言われると痛みが襲ってくる。死ななきゃかすり傷と言い聞かせて無茶な飛び込みを2回もしている。代償は骨にまで届いていた。
「これ飲んでー。あっ、キュルケちゃんもかけてあげるね」
ふらふら戻ってきたキュルケを抱き上げてポーションをかけるビレナ。
渡されたものと同じだが……。
「これ……俺のこれまでのすべての稼ぎを足しても買えないやつだ……」
ポーション千。一、十、百とあがっていくが、百でも貴族でしか買えない超高級品。俺の持ってるポーションは一だけだった。これでも結構疲れは取れるんだがな。
「にゃはは。耳くらい吹き飛んでも治るからね」
「まじかよ……」
恐ろしい話を聞いた……。それ、上級ヒーラーが全力で行う回復魔法と同じ効果だろ……?
「治ったばっかは感じやすくなっちゃうんだけどね。あ、試す?」
「怖いからやめてくれ!」
頭部の猫耳に手をかけていうビレナを慌てて止める。そんな趣味はない。
「さて、この子にも名前をつけてあげて……とその前に、リントくんって精霊召喚は覚えてる?」
「一応」
精霊。実態を持たない格の高い生命体。本来別の世界にいるとも言われている精霊たちは、テイムとは別の経路で契約を結ぶことができる。普段は精霊界と呼ぶ別の空間にいてもらい、必要に応じて召喚を行う高等スキル。
いや、スキルが難しいと言うより、精霊と契約するのが難しいだけだが……。
だからこそ無茶をしてでもここでこいつをテイムしようとしたわけだ。精霊を捕らえる機会などそう何度もない。
「ドラゴンテイマーに続いて精霊使いかぁ。いよいよSランクパーティーになっても名前負けしない実力がついてきたねぇ」
「こんな実力の付け方、ありなのか……」
「あれ? そのためにテイマーになったんでしょ?」
「まぁ、それはそうなんだけど……」
こうもトントン拍子だと嬉しいより先に不安やら心配やらが湧き起こる。
「リントくん、多分生まれ故郷のせいで自己評価がすごい低いけど、テイマーとしての実力は規格外だからね?」
「そうなのかなぁ」
「テイマーは実力によってテイムできる相手の格も数も決まるのに、全く上限を気にする素振りがないでしょ?」
「あれってほんとにそうなのか?」
物語に出てくるテイマーはたいてい、1匹の超級モンスターをテイムしてそれだけだったが、普通のテイマーは2,3匹くらいは使いこなす。
「リントくん、これですでに私、ギル、炎帝狼なんだけど、気づいてる?」
「次辺り厳しいのかなあ」
「そうは全然見えないよね」
キュルケは除くとして3体。そろそろ限界を迎えるだろうか?
「そもそも私もSランク、ギルもA+、炎帝狼がSクラス。こんな面々テイムしてキャパを越えないテイマー、多分リントくんくらいなんだけどなぁ」
まったく実感がない。高位のテイマーを見てないからだろうけど。
「ま、いいか。で、名前は?」
「カゲロウ」
「いいね! ぴったりじゃん!」
気に入ったようで炎帝狼、改めカゲロウも俺の周囲を飛び回って喜んでいる。こうしてみると可愛いものだった。
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